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「2022-2023年のバイオマス利用をめぐる動向」~NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク(泊みゆき)

2023-05-09 16:04:35

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写真は、ペレット企業によって伐採されたカナダの老齢林。木質ペレットに加工され、日本のバイオマス発電燃料となる ©地球・人間環境フォーラム)

 

 NPO法人バイオマス産業社会ネットワークでは、バイオマス利用に関わる2022~2023年の動向をまとめたバイオマス白書2023を発行した。本稿では、その概要についてお伝えしたい。

 

  • バイオマス発電の終わりの始まり?

 

 2022年4月に、再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)からフィード・イン・プレミアム(FIP)制度への移行が始まった。バイオマス発電でも小規模ではFIT制度が一部維持されているが、今後、FIP制度への移行が進められると考えられる。FITとFIPの大きな違いは、FITでは電力市場価格の変動に関わらず固定価格で電力が買い取られるのに対し、FIPでは一定のプレミアムが確保された上で、電力買取価格が上下することである。

 

 新型コロナやウクライナ危機によってバイオマス資源やエネルギー価格の上昇があり、FITでのバイオマス発電を行っている事業者がFIPへ移行する例も出ている。

 

 また、バイオマス発電に関わるFIT/FIP制度では、持続可能性基準の整備も進められた。2021年度にバイオマス燃料の生産・輸送・加工に関わる温室効果ガス(GHG)排出基準が策定されたが、22年度には、バイオマスの種類ごとの排出基準の規定値が作成された。燃料の種類ごとに輸送する船舶の大きさや距離などにより、どのように排出量が変わるかを示した。

 

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 図1の「化石燃料(発電の加重平均の)50%減」のラインがFIT/FIP新規認定事業者に義務付けられる2030年までの基準であり、70%減は2030年以降の基準である。SDシナリオは、国際エネルギー機関(IEA)が2040年にパリ協定の目標達成のために要するとする基準である。

 

 バイオマス発電は、太陽光や風力発電と比べ、発電電力当たりのライフサイクルGHG排出が多い。脱炭素化に向かう上で、バイオマス発電以外の方法を求められる理由の一つである。

 

 また、FIT/FIP制度において、EFB(パーム椰子果実房)、ココナッツ殻、カシューナッツ殻、くるみ殻、アーモンド殻、ビスタチオ殻、ひまわり種殻、コーンストローペレット、ベンコワン(葛芋)種子、サトウキビ茎葉、ピーナッツ殻、カシューナッツ殻油を新規燃料として、一般木質バイオマスの区分として取り扱うこととなった。

 

2.バイオマスはカーボンニュートラルか?

 

 これまで、バイオマスは植物が光合成によって大気中のCO2を固定したものを燃焼させるため、大気中のCO2を増やさない、カーボンニュートラル(炭素中立)であるとされてきた。

 

 しかし、森林をバイオマス燃料目的で伐採した場合、もとの蓄積を回復するのに数十年から数百年かかる。例えば、カナダのブルティッシュコロンビア州の天然林が伐採され、日本に木質ペレットに加工され、輸入されている。この天然林伐採後には植林が行われているが、20年以上たっても元の天然林の1/3程度のバイオマス量しか回復していない(図2)。

 

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 このように、バイオマス燃料目的で森林を伐採することは、気候変動対策や生物多様性保全等の点から、大きく問題視されるようになった。

 

 EUでもバイオマスエネルギー利用増大に伴い、一部の違法伐採を含む過剰な森林からの採取が行われてきた。2022年9月、欧州議会は森林から直接採取される一次木質バイオマスを燃料とするバイオマス発電を原則補助金対象から外す、再生可能エネルギー指令の改正案(REDIII)を可決した。

 

 その一方で、計画的に植林された人工林からの木材を、長期にわたって建材等として使えば、炭素蓄積となり、気候変動対策としても有効である。建材向けの木材を伐採、加工する過程で出る、樹皮や端材、建築廃材を焼却処分するのであれば、エネルギー利用することには合理性があると考えられる。

 

 木質バイオマスのエネルギー利用については、ケースによって排出量が異なり、今後も適切な利用について議論が続くと考えられる。

 

3.バイオマスの産業用熱利用

 

 日本のエネルギー最終需要の半分は熱であり、その過半は中高温の産業用熱利用である。これら工場での熱利用の脱炭素化を進めなければカーボンゼロは達成できないが、再生可能エネルギー熱で中高温が供給できるのは、現状ではバイオマスにほぼ限られる(図3)。

 

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 一方、電力は太陽光や風力の発電コストが化石燃料以下に下がりつつあり、限られた量のバイオマスは、発電ではなく、産業用熱(およびその廃熱を空調・給湯等に利用)へシフトしていくことが望ましいと考えられる。

 

 日本でも省エネ法が改正され、バイオマス等の非化石燃料の利用が推進されるようになった。しかし、燃料調達のハードルやバイオマスボイラー導入についての知見の不足などから、まだ普及には至っていないのが現状である。今後は、バイオマスボイラー導入支援等を行うエネルギーサービス会社の普及も重要となろう。

 

4.今後のバイオマス利用

 

 バイオマスは食用やマテリアル利用もされる資源であり、エネルギー利用はその最後に位置づけられるものである。今後、限りある廃棄物や残渣などの持続可能なバイオマスは、発電からバイオマスでなければ供給が難しい産業用熱や持続可能な航空燃料(SAF)等へシフトしていくと考えられる。廃棄物系バイオマスもすべて燃焼させるのではなく、バイオ炭などの形でマイナスカーボンとすることも求められよう。

 

 2022年~23年にかけて、バイオマス発電にかかわる火災や事故が相次いだ。バイオマス燃料も可燃性の危険物であり、適切な扱いが徹底される必要がある*。

 

 バイオマスには、木質系、農産物、廃棄物などさまざまな種類と利用法があり、化石燃料と類似した利便性を持つ一方で、配慮に欠ける利用を行うと、持続可能性、特に気候変動対策に逆行しかねないリスクがある。経済、社会、環境それぞれの面で持続可能で適切な利用が行われることが望まれる。

 

 さらに詳細は、バイオマス白書2023 (https://www.npobin.net/hakusho/2023/index.html)をご参照いただければ幸いである。

*例えば、以下参照 : 「木質ペレット燃料の安全な取扱い及び保管

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泊 みゆき(とまり みゆき) NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク理事長。日本大学大学院国際関係研究科修了。経済産業省バイオ燃料持続可能性研究会委員、関東学院大学非常勤講師等。著書に「バイオマス 本当の話」等。