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「原発カバー工事」完遂への道を開いた技術者(日経BP)
2011-12-15 20:27:35
そんなことが、本当に実現可能なのか――。会議の出席者らは懐疑的だった。清水建設では3月28日、東京電力に提案する福島第一原子力発電所の原子炉建屋カバー工事の工法について議論していた。席上、建設計画の立案を任された生産技術本部の印藤正裕本部長が披露したのは、溶接やボルトを一切使わず、かみ合わせるだけで柱と梁を接合するという常識破りのアイデアだった。
水素爆発で吹き飛んだ1号機原子炉建屋を鉄骨造のテントで覆い、放射性物質が外部に飛散するのを抑制する。そんな「建屋カバー」の建設プロジェクトは、いくつもの難題を抱えていた。最大の障害は、現場でのボルト締めや溶接ができない点だ。
通常、柱と梁の接合には人手を介した作業が不可欠だが、建屋周辺では高い放射線量が計測されている。とても長時間の作業が可能な環境ではない。ボルト締めなどの作業を極限まで減らし、作業員の被曝量を低減する妙案はないものか。
苦心の末に印藤氏がたどり着いたのが、「人が近づかなくても組み立てられる構造を考えればいい」という逆転の発想。木造伝統工法の仕口のように、かみ合わせるだけで柱と梁を接合する「嵌合(かんごう)接合」を鉄骨造に応用することだった。
近年は鉄骨造の分野でも、部材の再利用が容易であるといった観点から「嵌合接合」の実現可能性を探る研究が散見される。しかし、実際の建物に使われた事例はごくわずかだ。建屋カバーのように、平面が約42m×約47mの長方形、高さが約54mにもなる巨大な構造物に用いたケースはない。
印藤氏はスケッチと模型で接合部のディテールの検討を始めた。アイデアを書き出すために使ったノートは3冊になる。不眠不休で模型をつくるうちに、前例のない工法は現実味を帯びていった。
■印藤氏が接合部のディテールを書き留めたノートの一部
仕口の最終形は、次のような仕様になった。柱の側面に取り付けた上向きの突起と、梁の端部にうがった穴をかみ合わせる。突起は角すい状の「導入部」と、ホゾの役割を果たす「固定部」からなる。「導入部」は、はめ込む際のガイドとして機能。吊り込んだ位置がずれていても、梁を下ろすにつれて自動的に正しい位置に納まる。接合部のすき間は数mmで、かみ合わせると容易には抜けない。局部的に大きな応力がかかって鉄骨が座屈や降伏に至る恐れはないという。
当初は梁側に突起を設けていたが、地面に置きづらいといった理由から柱側に取り付けることにした。部位によって生じる応力が異なることから、「固定部」のサイズは位置に応じて変えた。
接合部の検討と併せて、部材の大型ユニット化を図った。柱と梁、壁・屋根パネルを合わせても、わずか62パーツに減らし、組み立て工数を少なくしている。壁パネルは約20m角、屋根パネルは全長約40mにもなる。組み立てには、国内最大級の750t吊りクローラークレーンを採用。風の影響を受けやすい大型ユニットの回転を制御するために、ファンを取り付けた治具も新たに開発した。
建築技術史上、前例のないプロジェクトを実現へと導くために求められたのは、常識に囚われない発想と、アイデアを形に落とし込む実行力。印藤氏らが入念に練り込んだ建屋カバー計画は、福島県いわき市の小名浜港での仮組み、そして発電所内での建て方を経て、10月28日に完了した。
http://kenplatz.nikkeibp.co.jp/article/building/news/20111212/555991/?P=1&ST=rebuild
水素爆発で吹き飛んだ1号機原子炉建屋を鉄骨造のテントで覆い、放射性物質が外部に飛散するのを抑制する。そんな「建屋カバー」の建設プロジェクトは、いくつもの難題を抱えていた。最大の障害は、現場でのボルト締めや溶接ができない点だ。
通常、柱と梁の接合には人手を介した作業が不可欠だが、建屋周辺では高い放射線量が計測されている。とても長時間の作業が可能な環境ではない。ボルト締めなどの作業を極限まで減らし、作業員の被曝量を低減する妙案はないものか。
苦心の末に印藤氏がたどり着いたのが、「人が近づかなくても組み立てられる構造を考えればいい」という逆転の発想。木造伝統工法の仕口のように、かみ合わせるだけで柱と梁を接合する「嵌合(かんごう)接合」を鉄骨造に応用することだった。
「印藤ノート」に描かれた初期案
近年は鉄骨造の分野でも、部材の再利用が容易であるといった観点から「嵌合接合」の実現可能性を探る研究が散見される。しかし、実際の建物に使われた事例はごくわずかだ。建屋カバーのように、平面が約42m×約47mの長方形、高さが約54mにもなる巨大な構造物に用いたケースはない。
印藤氏はスケッチと模型で接合部のディテールの検討を始めた。アイデアを書き出すために使ったノートは3冊になる。不眠不休で模型をつくるうちに、前例のない工法は現実味を帯びていった。
■印藤氏が接合部のディテールを書き留めたノートの一部
(資料:清水建設)
実現した仕口のディテール
仕口の最終形は、次のような仕様になった。柱の側面に取り付けた上向きの突起と、梁の端部にうがった穴をかみ合わせる。突起は角すい状の「導入部」と、ホゾの役割を果たす「固定部」からなる。「導入部」は、はめ込む際のガイドとして機能。吊り込んだ位置がずれていても、梁を下ろすにつれて自動的に正しい位置に納まる。接合部のすき間は数mmで、かみ合わせると容易には抜けない。局部的に大きな応力がかかって鉄骨が座屈や降伏に至る恐れはないという。
当初は梁側に突起を設けていたが、地面に置きづらいといった理由から柱側に取り付けることにした。部位によって生じる応力が異なることから、「固定部」のサイズは位置に応じて変えた。
部材はわずか62パーツにユニット化
接合部の検討と併せて、部材の大型ユニット化を図った。柱と梁、壁・屋根パネルを合わせても、わずか62パーツに減らし、組み立て工数を少なくしている。壁パネルは約20m角、屋根パネルは全長約40mにもなる。組み立てには、国内最大級の750t吊りクローラークレーンを採用。風の影響を受けやすい大型ユニットの回転を制御するために、ファンを取り付けた治具も新たに開発した。
建築技術史上、前例のないプロジェクトを実現へと導くために求められたのは、常識に囚われない発想と、アイデアを形に落とし込む実行力。印藤氏らが入念に練り込んだ建屋カバー計画は、福島県いわき市の小名浜港での仮組み、そして発電所内での建て方を経て、10月28日に完了した。
http://kenplatz.nikkeibp.co.jp/article/building/news/20111212/555991/?P=1&ST=rebuild