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鎌倉サステナビリティ研究所が「サステナブルファイナンス市場における個人の能力開発に関する分析と提言」。科学的知識だけでなく、「哲学・思考力」の重要性が浮上と指摘(RIEF)

2023-05-08 08:50:31

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  一般社団法人鎌倉サステナビリティ研究所(KSI)は、サステナブルファイナンス市場に参画する人材育成の課題についての調査結果を公表した。サステナブルファイナンスの拡大に伴う資金の出し手、受け手、仲介者等の役割についての課題をアンケート等で浮き彫りにする趣旨だ。それによると、科学的知識や理系の知識だけでなく、「社会への影響などを考慮する、哲学・思考力」の重要性が明らかになったとしている。また大学等での同分野での教育機会の提供等を提言している。

 

 調査はKSIの呼びかけに応じた金融関係者、企業、自治体、コンサル等の80人へのアンケートと、5人へのオンラインインタビューの結果を、En-CycleS (Engagement Cycle for Sustainability)運営の岸上有紗氏が分析した。アンケートは、 「各関係者に一番求めている役割」「各関係者が強化すべきスキル」「スキルの獲得・向上に向けて、どのような情報・教育機会を活用し、求めているのか」を主要な設問として、資金の出し手、受け手、仲介者それぞれの意見を聞いた。

 

  それによると、「各関係者がもっとも強化すべきスキル」については、評価機関を除いて、全体的に「技術的な知識」よりも「社会への影響などを考慮する、哲学・思考力」をあげる回答が多かったとしている。このほか、「ESG個別課題の具体的知識」「ステークホルダーとの対話スキル」も選択率が高かった。

 

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 反対に、「金融の役割に関する知識」「金融サービスを発案するスキル」等は全体的に低く、特に関係者別では「資金の受け手」からは「(金融の役割を)強化する必要性が高い」とする回答が少なかったという。資金の受け手は、資金の出し手の金融機関が、この分野で主導権をとることを避けたい思いがあるのだろうか。

 

 「市場動向や規制の知識」については、規制を受ける資金の出し手や受け手からの「強化の必要性」の回答は低いが、仲介・評価機関の回答は高く出た。金融取引の両当事者は、当局の介入強化をあまり歓迎しない一方で、仲介・評価機関は、尺度となる規制の明確化を求める形だ。

 

 サステナブルファイナンスを推進する金融機関等の資金の出し手が想定する「強化すべき必要性の高いスキル」の設問では、「技術的な知識」が自己(27%)、他者(31%)とも、もっとも低い。ということは、金融機関等は、すでにサステナブルファイナンスの知識を十分に持ち合わせているということのようだが、本当だろうか?

 

 同じく資金の出し手が強化すべきスキルの設問で、「金融の役割に関する知識」については自己(35%)、他者(54%)との差が開いている。また「市場動向や規制の知識」も自己(35%)と他者(56%)で差が開いている。金融機関だから金融知識や市場のことはよく知っているとの自負が伝わるが、サステナブルファイナンスの世界は、従来の金融・市場の世界と必ずしも同じではない点を理解していない風にも感じられる。

 

 その点は「ステークホルダーとの対話スキル」を重視する向きが自己(85%)、他者(70%)ともに高いことでも感じられる。サステナブルファイナンスの技術評価よりも、従来型のリレーションシップ金融(対話型)の流れの延長の中で、ESGやサステナビリティを位置付けて「サステナブルファイナンス」と理解している「資金の出し手」の姿が想像できる。実はそうした位置づけから「意図せざるグリーンウォッシング」が生じるリスクがあると思われるが、調査ではそうした分析にはなっていない。

 

 調査が強調する「社会への影響などを考慮する、哲学・思考力」を重視する全体的な回答率では、「資金の出し手」が(自己 : 54%、他者 : 50%)、「受け手」は(同57%、60%)、「仲介者」(同71%、63%)、「評価機関」(同40%、61%)。確かに評価機関を除いておおむね、高い評価だ。ただ、調査では「哲学・思考力」の定義が示されておらず、回答者が自らの能力開発で想定する「哲学・思考力」が同じものなのかは、よくわからない。

 

 能力開発・スキルアップに関連しては、調査結果から、「国内の大学をはじめとした高等教育機関における教育機会が限定的。更なる教育機会提供を」と求めている。その点はその通りだが、現在の国内大学は研究・教育の両分野で、サステナブルファイナンスに取り組む研究者が極めて少ない実態を踏まえれば、教育を提供できる学者はほとんどいないといえる。日本の大学自体が「能力開発・スキルアップ」ができていないのが現状だ。

「サステナブルファイナンス市場における個人の能力開発に関する分析と提言」の公開について — Kamakura Sustainability Institute

KSIレポート サステナブルファイナンス市場における個人の能力開発に対する提言 (squarespace.com)