HOME |米環境保護庁(EPA)。水道等の飲料水に含まれる難燃性有機フッ素化合物(PFAS)の規制値を一気に17.5倍強化。「1㍑当たり4ng」に。日本の現行の暫定目標値より12.5倍厳しく(RIEF) |

米環境保護庁(EPA)。水道等の飲料水に含まれる難燃性有機フッ素化合物(PFAS)の規制値を一気に17.5倍強化。「1㍑当たり4ng」に。日本の現行の暫定目標値より12.5倍厳しく(RIEF)

2024-04-12 00:08:04

スクリーンショット 2024-04-11 233405

写真は、「安全な水」をアピールするEPAのメッセージ=同サイトから。日本の水道水は安全ですか(?))

 

 米環境保護庁(EPA)は10日、飲料水に含まれる6種類の有機フッ素化合物(PFAS)について、最大汚染物質濃度(MCL)と呼ばれる法的強制力のある基準値を設定する飲料水規制(NPDWR)を発表した。健康への悪影響が早くから知られている代表的な物質PFOSとPFOAのMCLは4ng/L(水1㍑当たり4ng)とした。これまでのEPA勧告値が両物質合計で70ng/Lだったにに比べ大幅に厳しくなる。日本の暫定目標値(同じ2種合計)の50ng/Lよりも12.5倍厳しい。米国の新基準値は、日本の基準値設定にも大きな影響を与えそうだ。両物質以外のPFNAやPFHxS、GenXと呼ばれるPFAS物質のMCLは10ng/Lとした。

 

 EPAは今回の飲料水に関するPFAS規制を 「PFAS国家一次飲料水規制(National Primary Drinking Water Regulation:NPDWR)」と位置付けている。

 

 EPAは、一般から提出された12万件を超えるPFAS規制強化への要望・意見を踏まえるとともに、関係企業や業界団体等も含めた幅広い協議や、関係者の参加活動等で寄せられた意見も合わせて、今回の法規制強化を決めた。日本では業界団体が参加する審議会を中心として、実質的に関係者間で決定する方式が主だが、米国では消費者団体や住民、NGO等の一般の意見を広く集めて判断に資することが特徴だ。

 

医療水のPFAS規制値を一気に強化したEPA長官のモーガン氏
飲料水のPFAS規制値を一気に強化したEPA長官のマイケル・S・リーガン氏

 

 EPAは今回のNPDWRによる規制の実施によって、約1億人に対して、飲料水によるPFASの長期暴露を防止できるとし、それによって数千人の死亡、数万人のPFASに起因する重篤な疾病を防げると推計している。

 

 NPDWRの規制適用に向け、対象となる全米の約6万6000の公共水道事業者は、飲料水中のPFASの濃度をまずモニタリングする必要がある。2027年までに初期モニタリングを完了し、2027年からは継続的なコンプライアンス・モニタリングを実施し、飲料水中のPFAS濃度に関する情報を常に、一般に公表しなければならない。

 

 モニタリングの結果、飲料水中のPFAS濃度がMCLを超えた場合、公共水道事業者は2029年までにPFAS濃度を削減する解決策を実施しなければならない。2029年以降は、1物質でもMCLに違反した公共水道事業者は、飲料水中のPFAS濃度を低減するための措置を講じるとともに、違反した事実を当該地域の消費者や住民に、情報開示しなければならない。EPAは現状の公共水道事業者の6~10%は、規制適合のための対策が必要になると見込んでいる。

 

 EPAは、すべての人々が清潔で安全な水を確保できるよう、NPDWRの発表と同時に、超党派インフラ法(Bipartisan Infrastructure Law)に基づき、公共水道事業者と自家井戸所有者に対し総額10億㌦を提供し、PFASのモニタリングや汚染処理対策を公費で支援することも発表した。

 

 それだけではない。EPAは今回の発表に先立つ8日、連邦政府の調達を担当する一般調達庁(GSA)と合同で、全米で1500以上ある連邦政府の建物の清掃維持管理業務(custodial services)請負業者に対し、PFASを含まない洗浄剤の購入を義務付けると発表した。GSAの「世界最大の物品・サービス購入者」の立場を踏まえ、PFASの有害性を一般に周知し、使用量削減を誘導する狙いによる。

 

EPAが推奨するPFASフリーのハウス洗浄剤
EPAが推奨するPFASフリーのハウス洗浄剤

 

 このように米国では、EPAだけでなく政府全体でPFASの規制強化と削減に取り組んでいる。対照的に、日本は、製造業を監督する経済産業省も、水道の管理に当たる厚生労働省も、環境や公共用水域、地下水等の汚染防止を担当する環境省も、これまでのところ、そろってPFASの規制強化に消極的な姿勢に終始している。https://rief-jp.org/ct12/144194?ctid=

 

 これら国内3省は、PFOSとPFOAをそれぞれ「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」の第1種特定化学物質に指定し、製造と輸入は原則禁止としている。だが、その対応は、国際的な規制合意をみながらも、PFOSについてはPOPs附属書追加の翌年、PFOAは附属書追加の翌々年と、いずれも実施がずれ込んだ。「1年でも早く、消費者を守ろう」という「配慮」とは逆に、「1年でも長く製造業者に操業を続けさせよう」という「思惑」が透けて見える。https://rief-jp.org/ct12/141661?ctid=

 

 現行の日本のPFAS規制の暫定目標値の50ng/L以下(PFOS及びPFOAの合計値)は、厚労省が2020年4月1日に水質管理目標設定項目に追加したものだ。環境省も同年5月28日に両物質を人の健康の保護に関する「要監視項目」に追加し、暫定的な目標値を同じく50ng/L以下に設定した。しかし、その後、国際的な動きが、今回の米国のように、PFASの健康への懸念から規制強化の方向に動いているのに、暫定目標値のままで、各国で進む毒性評価や正式な基準値の設定は先送りにしてきた。https://rief-jp.org/ct12/144027?ctid=

 

「国民の健康」よりも「PFAS関連企業の操業」を重視(?)
「国民の健康」よりも「PFAS関連企業の操業」を重視(?)

 

 2023年になって、厚労省の「水質基準逐次改正検討会」と環境省の「PFOS・PFOAに係る水質の目標値等の専門家会議」は1月24日と6月16日に合同会議を開催した。しかし、その後も政府は「近年、各国・各機関において、毒性評価や目標値等の設定が行われており、一定の知見が蓄積されつつあるものの、TDI(耐容1日摂取量)の値は各国・各機関において相当のばらつきが見られている状況であり、国際的にもPFOS及びPFOAの評価が大きく動いている時期でもある」として、またもや毒性評価や正式な基準値の設定を見送った。https://rief-jp.org/blog/143587?ctid=33

 

 環境省は2023年2月1日に事故時の措置が必要となる水質汚濁防止法上の指定物質に追加したが、同法や各都道府県の条例による排水基準の設定は遅れており、実効ある対策につながっていない。

 

 こうした彼我の国の対応の違いは、どこから生じるのだろうか。有害性の判断等で不確実性が残る課題に対しての対応としては、国際的には「予防原則」が知られる。環境・健康面での不確実性が漂う場合でも、リスクが最大方向に働いた場合の可能性を踏まえて、より慎重な対応を、迅速にとるということだ。同原則が提唱された背景には、日本の水俣病、イタイイタイ病のような有害化学物質の環境への排出による甚大な産業公害の発生という現実がある。

 

 日本政府は、自らの政策の不備や、企業の怠慢で起きた過去の悲劇からの教訓を学んでいない。国民の健康や国土の汚染を防ぐことよりも、PFAS製品等の製造・使用企業の「操業継続」を優先することが、さも「国策」に沿うかのように錯覚しているように映る。審議会に「有識者」として出席している学者等も、本来の役目を果たしているのか、甚だ疑念を禁じ得ない。

 

 残念ながら、PFAS等の有害物質はすでに国内のありとあらゆる場所に存在している。行政と有識者らは、そうした実態を自ら調べ、評価し、知見を蓄え、防止策を講じ、これ以上、各国に遅れを取らぬよう迅速に行動すべきだろう。

                           (宮崎知己)

https://www.epa.gov/newsreleases/biden-harris-administration-finalizes-first-ever-national-drinking-water-standard

https://www.epa.gov/newsreleases/biden-harris-administration-takes-action-cut-pfas-us-government-custodial-contracts