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IAEAのグロッシ事務局長。ウクライナでロシアが占拠するザポリージャ原発を視察。ロシアが作業員にロシア市民権取得を強要、作業員減少で保管核燃料の冷却不足のリスク拡大(RIEF)

2024-02-08 08:34:14

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写真は、ザポリージャ原発に入ったグロッシIAEA事務局長=同氏のXへの投稿から)

 

 国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長が7日、ウクライナのザポリージャ原発を視察した。原発を占領するロシア側が、ウクライナ人作業員にロシア企業と契約を結ぶよう強制したことで、使用中の核燃料や使用済核燃料等がそのまま保管されており、それらの核燃料の冷却にあたる作業員が減少する事態になっていることを懸念しての訪問だ。軍事紛争に原発が巻き込まれた「現在進行形」の課題をどう「沈静化」できるかは、長引くウクライナ紛争の中でも特に先が読ない懸念事項といえる。

 

 ウクライナ南部のザポリージャ原発(ロシアが占拠中)を訪問したのは、IAEAのラファエル・マリアーノ・グロッシ事務局長とリディ・エブラード原子力安全・セキュリティ部長ら専門家チーム。7日に同原発を視察した。

 

 グロッシ氏らは前日6日に、キエフでゼレンスキー大統領と会談した。会談後の報道陣の取材に対して、グロッシ氏は「私たちはかなり長い間、ザポリージャ原発の労働力レベルについて一般的な懸念を表明してきた。ロシア原発管理部門による今回の発表はその懸念に拍車をかけるものであり、明日(7日)の朝から始まる私の訪問の主な関心事は、この件についてロシア側に正確に尋ねることだ。最も重要なのは、ロシアの決定が運転に与える影響を評価することだ」と述べた。

 

ザポリージャ原発を視察するグロッシIAEA事務局長 (グロッシ氏のXへの投稿から)
ザポリージャ原発を視察するグロッシIAEA事務局長
(グロッシ氏のXへの投稿から)

 

 IAEAによると、ザポロージャ原発では、占領するロシアが、ウクライナ国営原子力企業エネルゴアトムと雇用関係にある作業員の勤務を認めず、すべてロシアの市民権を取得しロシア国営ロスアトムと契約を結ぶよう強制すると発表した。これを受けて、作業人員の不足が心配されている。IAEAは今月1日、「スタッフはすでに大幅に減少している」との声明を出し、原発の管理態勢に懸念を示していた。

 

 今回の視察でグロッシ氏らは、少ない人員で使用済等の保管核燃料が安全に冷却されているかを中心にロシア側に聞き取りを行なったとみられる。IAEAはグロッシ氏らが、この視察の後、モスクワを訪問する予定であると言及している。

 

 グロッシ氏が戦争の最前線を越えてザポリージャ原発を訪問するのは今回で4度目。同原発では6基の原子炉がすべて1年半近く停止している。だが、原発の敷地内に保管されている使用中だった核燃料や使用済核燃料等は、原発が停止した状態の間でも、放射性核種が崩壊熱を放出し続けている。

 

ウクライナのゼレンスキー大統領と握手をするグロッシIAEA事務局長 (グロッシ氏のXへの投稿から)
ウクライナのゼレンスキー大統領と握手をするグロッシIAEA事務局長
(グロッシ氏のXへの投稿から)

 

 核燃料からの放射性核種の崩壊による熱量は運転中の出力の7〜8%に達するとされ、冷却水をポンプで循環させるなどして熱を除去し続けないと、温度が上昇し核燃料の溶融(メルトダウン)が始まってしまう。条件次第では、臨界に達して核分裂反応が始まったり、水蒸気爆発を引き起こしたりして、大量の放射性物質が大気中に撒き散らされる恐れが出てくる。

 

 こうした事態は、ウクライナだけで生じる特殊な問題ではない。日本の原発が戦時を想定して規制を行なっているかというと、2022年5月30日の参議院予算委員会で原子力規制委員会の更田豊志委員長(当時)が「規制基準において、武力攻撃に備えることは現在要求しておりませんし、また今後も要求することは考えておりません」と答弁したように、将来についても考えないことにしている。

 

 武力攻撃には自衛隊が当たるという建て付けの中での答弁だ。だが、北朝鮮や中国、ロシアと海を挟んで向かい合う日本海側に、稼働中の全19原発のうち10原発が配置されている。これらを有事の際に、自衛隊がすべて防衛できるのかといった議論は国会でも乏しい。「ダチョウ」は眼前の危機を前にして、頭を土の中に潜り込ませて気づかないフリをするといわれるが、日本の原発政策はこのダチョウと似ているのかもしれない。

 

 しかし、そんな「現実逃避の国」は限られている。世界に目を転じると、これまで各国の原発の対テロ対策の評価・提言を行なってきた米シンクタンク「核脅威イニシアチブ(NTI)」が、ロシア・ウクライナ戦争を機に、原発への武力攻撃における国際的な規範作りの検討に入っているという。同規範が実現すると、日本の原発の安全保障上のリスクが精査されるかもしれない。

                          (宮崎知己)

https://www.iaea.org/newscenter/multimedia/videos/iaea-director-general-visits-zaporizhzhya-for-the-fourth-time

https://www.iaea.org/newscenter/news/iaea-director-general-in-ukraine-no-place-for-complacency-with-zaporizhzhya