損害保険大手の相次ぐ問題発覚。金融庁長官が「損保が問題を認識しながら放置していたのではないか」と不信感示す。監督権限を持つ同庁は「(寡占弊害の)問題認識を持っていた」のか(RIEF)
2023-08-04 21:00:27
(写真は、朝日新聞のインタビューに答える金融庁長官の栗田照久氏=朝日新聞から)
金融庁長官の栗田照久氏は、朝日新聞のインタビューに答えて、中古車販売大手ビッグモーターの保険金不正請求問題で、「損害保険会社が問題を認識しながら放置していたのではないか」と強い不信感を示したという。「原因究明をして問題があれば、しっかり対応しないといけない」と指摘、調査結果次第では厳しい処分を下す考えを示した。一方で、損保各社を監督してきた同庁の監督行政のあり方については言及していない。「寡占状態」の損保業界に対する金融監督のあり方についての緊急調査も必要ではないか。
金融庁は4日、ビッグモーターの不正問題で、同社に出向者を派遣するなどでコミットしていた東京海上日動、三井住友海上火災、あいおいニッセイ同和損保、損害保険ジャパンの損保大手4社に対して、保険業法に基づく追加の報告徴求命令を出した。保険会社側がビッグモーターの不正な保険金請求をどこまで知っていたのかについて報告を求める。
特に損保ジャパンは社内にビッグモーターに対応するチームを設けて、同社関連の損害査定を簡略化していた。金融庁はこの点を問題視ししており、報告徴求では、そうした簡略化が妥当だったのかを検証して詳しく報告するよう求めるとしている。
損保大手で発覚した問題は、ビッグモーター問題だけではない。直近では企業向け共同保険での事前の価格調整問題も明らかになっている。火災保険の共同保険に加入した東急が、大手4社の保険料がほぼ同一であることに気づき発覚した。その後、同じような共同保険を利用した価格調整の疑いが、ENEOS、成田国際空港会社、JR東日本等でもわかり、少なくとも数十件で疑問が浮上しているとされる。
一連の問題の背景には、大手4社でシェア9割を占める寡占状況が指摘される。今回は、損保が一般的に提供する共同保険という保険商品が寡占下で不正に利用されたといえる。ビッグモーター問題でも、損保各社は被保険企業との取引を維持するため、お互いに当該企業と「結託」する形で、保険金の不正請求を受け入れてきた可能性が出ている。いずれも寡占、カルテル行為による弊害の顕在化といえる。
4日付の朝日新聞のインタビューで、金融庁長官の粟田氏は、ビッグモーター問題について、「一部企業からは出向社員がいて、ある程度業務内容に関与していたにもかかわらず、こういうことになった。損保がきちんと指導していたのか、ビッグモーターのコンプライアンス(法令や社会規範の順守)上の問題を認識していたのに放置していたのではないか、という問題が大きい」と指摘した。
ビッグモーター問題では、本来保険を使う必要のない修理で保険金が支払われたため、対象となった車の所有者は、保険の等級が下がり、保険料が増えるケースが出ている。この点で栗田氏は「顧客にとっては不利益。しっかり救済して被害回復しないといけない」とし、損保側に対応を求める考えを示したという。
栗田氏は修理工場と損保の関係について、さらに触れ、「これまでは、損保が渋くて必要な経費を全部払わず、修理工場が困っているという問題があり、(金融庁として)損保に払うべきだと言ってきた。だが、今回は逆の話が起こっている」と語った。朝日新聞は、これまで、あまり想定していない事態だったことを認めた、としている。
栗田氏は共同保険の不正使用問題についても、「顧客に不利益を与えるような形でやるというのは許されない。本来得るべきでない利益を得る目的で、高い保険料を要求していては絶対にダメだ」と述べた。
これらの損保大手企業に対しては、金融庁はこれまでも定期的に監督を実施している。各社の財務評価だけでなく、栗田氏が認めたように、修理工場と損保の関係等の取引概要にも踏み込んで「指導」している。共同保険や、特定の被保険企業への過剰関与等について、監督当局として、どこまで把握していたのかを明らかにすべきだろう。
さらには、4社(実質3グループ)で市場の9割を占めるわが国の損害保険市場について、金融監督当局として、適正な競争状況にあると考えているのかも見解を明らかにすべきだろう。
各損保グループは、銀行の経営危機が一段落した2000年代に、合従連衡を進めた。東京海上日動は、2004年に東京海上と日動火災が合併して発足。SOMPOホールディングスは、2002年に安田火災海上と日産火災海上の合併で損害保険ジャパンとなり、同年に大成火災海上も加えた。その後、2009年に日本興亜損保が合併、2019年に名称を現状に変えた。MS&ADインシュアランスグループは、2001年に三井海上火災と住友海上火災が合併、その10年後に、あいおい損保とニッセイ同和損保が参加した。
金融庁は、銀行の3メガ体制も含め、金融業態ごとの市場競争が十分に機能しているのかどうかを、市場競争の確保の観点から検証し、市場と国民にその評価を示すべきだろう。かつての金融危機対応の合従連衡の奨励策が、危機が過ぎ去った後も「当たり前」のように継続されることで適正な競争が後回しとなっていないか。寡占状況下で金融各社が特定の大手顧客企業への配慮を最優先し、競争棚上げで生じる過剰利益を享受し合っていないか。そうだとすると、日本の金融市場は、別の「危機」を抱え込んでいるともいえる。
https://digital.asahi.com/articles/ASR8455H5R83ULFA01T.html?iref=comtop_7_02
(藤井良広)