HOME |経団連、米証券取引委員会(SEC)の「気候情報開示規則案」に意見表明。シナリオ分析の共通義務化と法定開示、Scope3の法定開示等にすべて反対。国内の気候情報開示を意識か(RIEF) |

経団連、米証券取引委員会(SEC)の「気候情報開示規則案」に意見表明。シナリオ分析の共通義務化と法定開示、Scope3の法定開示等にすべて反対。国内の気候情報開示を意識か(RIEF)

2022-06-08 07:15:06

keidanrenキャプチャ

 

 経団連は、米証券取引委員会(SEC)が公開中の「気候関連開示規則案」に対するコメントを公表した。それによると、SECの規則案公表を評価するとしながら、その基本点では、ほとんど反対している。①シナリオ分析の開示では、特定の共通シナリオを義務化せず、開示による法令違反を問わない「セーフハーバールール」を設定すべき②全上場企業にScope3の開示を求めることに反対、同開示にも「セーフハーバー」を設定③気候変動に伴う財務的な影響を財務諸表に注記するのは時期尚早――等。金融庁がわが国の有価証券報告書での気候情報開示を目指す動きを牽制する形でもある。

 

 コメントはまず「SECが、規則案を公表したことは、時宜に適った取組みと考える」と評価の立場を示している。しかし、各論になると、規則案の軸になる開示方針のほとんどに対して、「反対」「時期尚早」「すべきでない」等の慎重論、否定論を唱えている。

 

 その一つが気候リスクのシナリオ分析だ。SEC案は、企業が抱える自社の気候リスクを共通のシナリオ分析で評価し、財務報告書に記載することを求めている。これに対して経団連は、①企業が採用するシナリオは各社の実態に応じたものとすべきで、特定のシナリオの使用を強制すべきでない②同分析の開示を求める際は、法的責任を問わない「セーフハーバールール」を適用すべき③分析の開示は専門的・技術的になるので他の開示書類の参照を認めるべき、とした。https://rief-jp.org/ct4/123569?ctid=69

 

 現在、気候リスクの開示フレームワークづくりを進めているSECや国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が目指しているのは、各企業の分析内容を横比較できる共通のシナリオ分析である。そのための共通シナリオについては、中央銀行・金融監督当局で構成する「金融システムのグリーン化のための当局ネットワーク(NGFS)」で開発を進めている。経団連の姿勢はこうしたグローバルな取り組みに疑義を挟む形だ。

 

 もう一つのISSBとの共通する論点であるScope3に関するSECの開示案についても、法的義務化を控えるよう要請している。SEC案では、基本的に財務報告書を提出するすべての企業に対してScope3の開示を求め、そのうち中堅・中小企業等については、開示義務を緩めるほか、条件によっては「セーフハーバールール」の設定にも言及している。

 

 これに対して、経団連のコメントは、①全企業にScope3開示を求めることは控え、当面は任意での開示を進め、Scope3の開示の実務が醸成されてきた段階で、開示の費用対効果を分析して、法定開示の有無を判断すべき②法的開示を求める際にも、Scope3の開示には、セーフハーバールールを設けるべき、とした。

 

 また規則案はScope1、同2の開示について、監査法人等の第三者の保証(attestation)を求めるとしている。この点でも経団連は「(保証は)企業への負担が大きく、現時点では、Scope1・2の保証実務が十分に醸成されているとは言えないため、保証を求めるのは時期尚早」とした。同保証の付与は、金融庁も検討しているが、それにも反対する構えのようだ。https://rief-jp.org/ct4/125288?ctid=71

 

 さらに、気候変動に伴う財務的な影響を財務諸表の注記で記載する案にも反対とした。その理由として①気候変動リスクは超長期的に変動し、直接的、間接的影響を把握するのは困難。同一条件での他社比較は困難②財務への影響は複数の要因によるものが多く、気候変動要因に絞った定量化は困難なケースがほとんど③会計の専門家である会計監査人が、自然災害がビジネスに及ぼす影響の妥当性を評価するのは困難--と、ことごとく「困難」を強調している。「困難性」を強調したうえで、法的開示は「時期尚早」としている。

 

 規則案が、企業のGHG排出量の情報開示に際して、連結子会社には全てのGHG排出量を、持分法適用会社には持分割合に応じたGHG排出量を含めることを求める点にも懸念を示し、「重要性の判断により、排出量算定対象から一部を除外することも許容すべき」と修正を求めた。TCFD報告が求める指標と目標の開示についても、義務付ける項目は最小限とすべき、としている。

 

 情報開示の適用時期では、SECは大規模早期提出企業に対しては、2023会計年度からの開示を求めている。だが、経団連は「このスケジュールは現実的ではない。膨大な法定開示を行う準備期間を想定すると、規則の成案化から1年以上の準備期間は必須であり、適用時期の再考を求めたい」としている。

 

https://www.keidanren.or.jp/policy/2022/054.html