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日韓首脳。「水素・アンモニア・グローバルバリューチェーン構築」を共同提案。原料は再エネでなく天然ガス。専門家やNGOは「石炭火力延命策で、気候変動に悪影響」と懸念表明(RIEF)

2023-11-18 00:26:06

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写真は、サンフランシスコで開催したAPEC会議に向け、脱化石燃料政策を求める環境NGOのアピール行動)

 

 米サンフランシスコで開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)に出席した岸田文雄首相は17日、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領とともに、脱炭素燃料としての水素やアンモニアの供給網を創設する「水素・アンモニア・グローバルバリューチェーン」構想の推進を打ち出した。米国や中東で産出する天然ガス事業に日韓企業が共同出資し、その資金調達を両国政府が公的金融機関等で支援、水素・アンモニアの供給網を確保するという。しかし、水素・アンモニアの原料には主に化石燃料の天然ガスを想定することから、内外の専門家や環境NGO等は「化石燃料の延命となり、アジアでの再エネへの移行を遅らせる可能性がある」との懸念を共同で表明した。

 

 日韓首脳は、同日、カリフォルニア州のスタンフォード大学で開いた討論会に出席し、「水素・アンモニア・グローバルバリューチェーン」構想を共同で提案した。水素の生産では、CO2の排出をゼロにできる再エネ電力を利用する「グリーン水素」がEU等では推奨されている。これに対して、日韓両国の提案は、化石燃料である天然ガスを原料とする「ブルー水素」および「ブルー・アンモニア」の生産に注力する方針だ。

 

  日本政府はグリーン・トランスフォーメーション(GX)」政策を掲げ、官民資金150兆円を投じて、既存の石炭火力発電所の燃料を水素・アンモニアの混焼に段階的に切り替える方針を示している。今回の日韓構想は、このGX政策に沿って火力発電用の水素・アンモニアを海外で割安で調達する考えのようだ。韓国も2030年までに現在ある24基の石炭火力発電所をアンモニア混焼に切り替える方針で、日本と歩調を合わせる形だ。

 

 ブルー水素の場合、天然ガス火力で発電することで、CO2が発生する。日韓構想では、これらのCO2をCCS等で回収・貯留することを含むとみられる。だが、CCSは技術レベルが確立していないうえに、同技術を使うことで確実にコストがアップすることから、最近になって米エネルギー大手企業が、米国内で長年手掛けてきた最大級のCCSプロジェクトを閉鎖する等の動きが出ている。CCSを活用できないと、CO2排出を続けることになる。https://rief-jp.org/ct4/140121?ctid=72

 

 日本のGX政策では、水素・アンモニアの石炭火力発電への混焼化を国内だけでなく、アジア全域でも展開する構想を示している。そこで、CCS技術の開発や火力発電への混焼率向上等を後押しするため、GS経済移行債(国債)で調達した資金を補助金として当該企業に供給する方針だ。韓国でも来年、クリーン水素認証制度を設立する予定だが、韓国政府は「クリーン水素」の範囲に、今回、日韓で共同提案した天然ガス由来の「ブルー水素」を含める方針を示し、国会で議論になっているという。

 

 水素には、太陽光等の再エネ電力を使って水を電解する「グリーン水素」のほか、今回のような天然ガス電力を使う「ブルー水素」、さらに原発電力を使う「ピンク水素」等に分かれる。ブルー水素の場合は、化石燃料発電なのでCO2排出が生じるため、CCS等での回収が不可欠。その分、コスト増と技術面の向上が課題だ。ブルー水素の場合、CCSで確実にCO2を回収・貯留できない場合は、CO2排出を続けることから「ブルー・ウォッシュ水素」ということになる。

 

米国での「ブルー水素・同アンモニア開発の共同調査で合意した三菱商事等の代表ら
米国での「ブルー水素・同アンモニア開発の共同調査で合意した三菱商事等の代表ら

 

 両国は天然ガス生産国である米国や中東での生産投資を共同で実施することで、米国等の生産国の支持を得て、「ブルー水素・アンモニア」供給網に対する国際的な支援も得たい考えのようだ。すでにこうした両国政府の戦略を先取りする形で、今年2月、日本の三菱商事、韓国のロッテケミカル、ドイツのRWEの3社は、米国で最大1000万㌧のブルーアンモニアを生産する戦略的アライアンスの構築で合意している。三井物産と韓国のGSエナジーも、アラブ首長国連邦(UAE)の石油メジャーであるADNOCと最大100万㌧のブルー水素の共同生産を計画している。

 

 こうした日韓両国によるブルー水素主導のバリューチェーン構築の動きに対し、米コーネル大学のロバート・ハワース教授(生態学・環境生物学)は、「ブルー水素は明らかに『クリーン』ではない。むしろ化石燃料を燃やすよりも気候変動に悪影響を及ぼす可能性がある。日韓が、ブルー水素とアンモニアの拡大を推進するサプライチェーンを構築することは、化石燃料企業によるさらなる汚染を認めることだ。エネルギー転換のためには、再エネと電化を優先させるべきだ。他に解決策がない場合にのみ、『クリーン』な水素の唯一の形態としてグリーン水素を使うべきだ」と指摘している。

 

 NGOの「Solutions for Our Climate (SFOC)」の石油・ガス・プログラム・リーダーのドンジェ・オー氏は「日本と韓国では、化石燃料産業が『クリーンエネルギー』と称して石炭とガスの使用を長引かせる手段として、水素とアンモニアを強く支持している。両国とも、電化や再エネ等の安価で効率的な代替手段を優先するのではなく、既存の化石燃料火力発電への水素やアンモニアの混焼を推し進めようとしている。両国は、化石燃料をグリーンウォッシュするような共同行動には慎重であるべきだ」としている。

 

 NGOのオイル・チェンジ・インターナショナルのアジア・プログラム・マネージャー、スザンネ・ウォン氏は「アンモニアや水素混焼は、気候危機を緩和するための貴重な時間と資源を奪うだけにすぎない。これらの化石燃料をベースとした技術に効果はなく、気候変動目標を達成するのに十分な温室効果ガス排出量を削減することはできない。日本と韓国は、地球と地域社会の安全や幸福よりも企業の利益を優先することをやめるべきだ」とコメントしている。

https://priceofoil.org/

三菱商事 – プレスルーム – 2023年 – RWE、LOTTE CHEMICAL Corporationとのコーパスクリスティ港における燃料アンモニアのサプライチェーン構築に向けた共同調査の締結ついて | 三菱商事 (mitsubishicorp.com)

“South Korea and Japan to establish a joint supply chain for hydrogen and ammonia… Expanding Economic and Security Cooperation”-Trade News (kita.net)