EU欧州委員会 「サステナブルファイナンス金融行動計画:SFAP」公表。EU主導のタクソノミー開発、グリーンボンド共通基準など。HLEGの報告を最大限取り込み(RIEF)
2018-03-08 23:02:37
欧州委員会は8日、気候変動対策と持続可能な開発目標に資する金融システムを構築するため、10項目からなる「サステナブルファイナンス金融行動計画(Sustainable Finance Action Plan:SFAP)を公表した。1月末の「サステナブルファイナンス・ハイレベル専門家会合(HLEG)」の最終報告を受けて、サステナブルファイナンスのフレームワーク(タクソノミー)やEU独自のグリーンボンド基準の制定などの政策実現に向けたロードマップを示した。
EUはパリ協定の目標達成に加えて、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の実現などに向けて、すでに「EU2030年エネルギーと気候フレームワーク」「エネルギー同盟」「循環経済行動計画」「EUサステナブル開発2030年アジェンダ実行計画」などを立案している。今回の金融行動計画は、HLEGの報告を全面的に取り入れて、金融システムについてのサステナブル化を図ることを目指したものだ。http://rief-jp.org/ct6/76445
SFAPが提案する10項目の行動計画は次の通り。①サステナブルな金融活動を定義づけるEU独自の分類システム(タクソノミー)の確立②グリーンファイナンス商品のための標準とラベルの制定③持続可能なプロジェクトへの投資の促進④ 金融機関が金融サービスを提供する際、持続可能性を組み込む⑤サステナビリティ・ベンチマークの開発。
⑥ 格付や市場調査にサステナビリティをより良く統合⑦ 機関投資家や資産運用機関の責任の明確化⑧金融の健全性要件にサステナビリティの考えを盛り込む⑨サステナビリティの情報開示と会計ルール化を強化⑩サステナブルなコーポレートガバナンスの促進と、資本市場での短期主義の抑制――。
行動計画の第一に掲げられたのが、サステナブルファイナンスのタクソノミーの確立だ。金融の世界で何がサステナブルであり、その範囲はどこか、ということを定義づけする共通言語・フレームワークを、EUが主導して確立するという。HLEG報告の最重要提言でもある。サステナブルファイナンスを「EU語」主導にする戦略でもある。
グリーンファイナンス商品の標準化とラベル化では、EUグリーンボンド基準の制定のほか、サステナブルな金融商品について、EUの「エコラベル」の設定を目指す。グリーンボンドは現在、市場基準としてのグリーンボンド原則(GBP)があるが、EU共通ガイドライン化することで、EUが市場の主導権を確保することを目指す。EUラベルは法制化を目指すが、グリーンボンドは法制化以外の手段による、としている。
サステナブルファイナンスを広げるうえで、資産保有者と資産運用者の役割を重視するのも行動計画の特徴だ。年金や保険会社などの機関投資家が加入者や契約者に負う責任として、フィデシャリー・デユーティー(受託者責任)がある。だが、現行のEUの法体系では、投資家の運用責任に関して、サステナビリティ要因やリスクを十分に考慮に入れていないうえ範囲も不明確として、投資家責任の明確化と、法的な義務付けを目指すとしている。
国際的に議論を呼ぶとみられるのが、金融機関の健全性要求事項にサステナビリティを盛り込む、とした点だ。銀行の自己資本比率規制は国際的なバーゼル委員会で決定されている。現行の自己資本比率のリスクウェイト評価では、サステナブル要因は考慮されていない。今回、欧州委員会は限定をつけつつ、サステナブル要因を自己資本評価に盛り込む(いわゆる「グリーン・サポーティング要因」)ことの検討を求めている。
これは銀行の保有債権のうち、化石燃料関連企業向けの融資などを「座礁資産」と評価したり、逆に再生可能エネルギー事業向け投融資を「リスクウェイト優遇対象」とすることなどの考えに基づく。しかし、伝統的な中央銀行や銀行監督当局関係者は、サステナブル関連の資産・負債評価には不確実性が高いことから、自己資本評価にサステナブル要因を組み込むことに懸念を示す向きが多い。http://rief-jp.org/new/77238
企業のサステナブル情報開示と、会計ルールの透明性の向上については、金融安定理事会(FSB)の気候関連財務情報タスクフォース(TCFD)が昨年夏に公表した勧告を踏まえている。TCFD報告をより有効に実現するため、EUが今年から制定した非営利情報インフォメーション(NFI)Directiveを改正することを目指す。
欧州委員会副委員長のValdis Dombrovskis氏(金融分野担当)は、「HLEGの成果を踏まえて、われわれはサステナブルファイナンスのグローバル・ベンチマークを設定するための広範囲に及ぶ改革案を提案できた。金融産業を動かしてはじめて、われわれは気候変動とエネルギー目標の間での年間1800億ユーロ(約2兆4000億円)のファンディングギャップを埋めることができる。それによって次世代のためのサステナブルな未来を支えることにつながる」と位置付けている。
今回の行動計画の公表を受けて、欧州委員会は5月には、機関投資家と資産運用機関のサステナビリティに関する責任を明確化する提案と、気候変動と他の環境・社会活動のためのEUタクソノミーの原則と範囲についての提案を公表する。
さらに第二四半期には、現行の金融規制のMarkets in Financial Instruments Directive (MIFID II) と、保険業のthe Insurance Distribution Directive (IDD)にサステナビリティ配慮を盛り込んだ内容に改正する。 2019年第一四半期には、気候変動活動に関するタクソノミーの報告が専門家グループから公表され、同年第二四半期には、気候変動の適応計画についてのタクソノミーや、グリーンボンド基準などの報告が公表されるなど、サステナブルファイナンスの政策立案が進む予定だ。
欧州委員会のSFAPは、極めて積極的にサステナビリティを金融の世界に盛り込むことを目指すものとして注目される。ただ、銀行の自己資本比率規制へのサステナビリティ要因の盛り込みなど、国際的な調整が不可欠なものも多い。またサステナビリティの普及促進にとどまらず、サステナビリティを「パワーゲーム」と位置付ける戦略性も見え隠れする。