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防衛省・自衛隊、2030年度までに温室効果ガス排出量50%削減を目指す「気候変動対処戦略」公表。脱化石燃料、電力の再エネ化、「グリーンベース」、ハイブリッド戦闘車両も(RIEF)

2022-08-30 00:46:42

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 防衛省は29日、防衛省・自衛隊として気候変動に対応するための「防衛省気候変動対処戦略」を公表した。同省・自衛隊が排出する温室効果ガス(GHG)の総量を2030年度までに50%削減(2013年度比)する目標を掲げた。目標達成のための施策として、2030年度までに同省全体の調達電力の60%以上を再エネ電力とするほか、新築基地等の施設への太陽光導入等を進めて「グリーンベース化」を図り、自衛隊活動での化石燃料への依存度を下げることも目指すという。

 

 (写真は、航空自衛隊松島基地での電動式航空機用けん引車の検証の模様)

 

 同省によると、同省と自衛隊の電力使用量は政府全体の電力使用量の4割を占める。気候変動が安全保障に及ぼす影響としては、世界中で水や食料不足、生活環境の悪化等を招き、大規模な住民移動や限られた土地や資源を巡る争い、社会的・政治的な緊張や紛争を誘発するなど、国際社会の平和と安全に対する既存の脅威を長期的に深刻化させる恐れがある、と指摘。

 

気候変動による自然災害の多発で、自衛隊の災害出動も増加している
気候変動による自然災害の多発で、自衛隊の災害出動も増加している

 

 気候変動による自然災害の多発で、自衛隊の災害出動が増加しているが、自衛隊自身も気候変動の影響で、基地等が海面上昇による浸水、大雨・台風等での施設・インフラの被害、防衛装備品の性能・仕様への影響等を受けるとしている。その結果、自衛隊員の健康等に直接・間接的に影響が及ぶほか、自衛隊の任務・役割遂行にも様々な制約や障害、支障が顕在化することが予想されるとしている。

 

 こうしたことから、防衛省・自衛隊は、任務で使用する燃料についても化石燃料からの脱却を目指し、より強靭でレジリエンスを増した、効率的な施設・装備への転換が必要とし、気候変動対策と防衛力の維持・強化を同時に図ることを目指すとしている。

 

 2050年度に向けた「脱化石燃料」では、化石燃料に替わる代替燃料(SAF、バイオ燃料、合成燃料等)の導入のほか、防衛用燃料供給の脆弱性克服のため、国内で研究開発・製造・調達による国産代替燃料比率を高める。そのために太陽光などの再エネ利用を促進する。

 

 基地の施設等のうち、GHGの大きな排出源であるボイラー施設等については、GHGを排出する構造のインフラが長期にわたり固定化すること(ロックイン)がないよう再エネ化を進めていく。電化が困難な設備については、使用する燃料をカーボンニュートラルな燃料へ転換することを検討する、としている。

 

 基地やインフラ、防衛装備品等のロードマップの策定では、現時点で技術的に実用化が見通せる技術(太陽光発電、マイクログリッド、SAF、無人機等)は、優先順位をつけ、研究開発・実証及び、出来るだけ早期の導入、整備を目指す。基地では、太陽光発電等の再エネ化や蓄電設備を整備することで、GHG排出削減に貢献しつつ、災害時や有事にもレジリエンスなエネルギー自立化(グリーンベース化)を目指す。基地での新築事業は、省エネ化を加速させ、原則ZEBOriented相当以上とし、2030年度までに新築建築物の平均でZEBReady相当の達成を目指す。

 

 防衛装備品では、脱炭素社会に対応し、よりレジリエンスで、抑止力及び対処力が高まる革新的なものを検討する。「安全保障上の要請から取り組んでいる戦い方のゲーム・チェンジャー」に係る各種施策(①各種システムへのAI導入、②ドローン・無人機導入、③無人機・水中無人機導入、④レーザー兵器導入、⑤ロボット導入、⑥電動・ハイブリッド型偵察車両の導入、⑦現地可搬型太陽光発電・蓄電設備等の導入)等をあげている。

 

日米共同研究によるハイブリッド型戦闘車両の開発の概念図
日米共同研究によるハイブリッド型戦闘車両の開発の概念図

 

 このうち、ハイブリッド型車両等では、日米共同で、戦闘車両のハイブリッドシステムを研究しており、これを推進する。同システムは乗用車のハイブリッド車(HV)のように、エンジンとモーターを両方活用、蓄電設備も備えた比較的大型の装輪車両の開発を目指す。HVは騒音がほとんどない静謐機能を備えており、大型の給電車両や、大電力使用兵器システムのベース車両等としての利用を想定しているという。

 

 そのうえで、「気候変動の対応は、わが国の防衛にとってマイナスと考えるのではなく、 将来を見据えて、より強靭でレジリエンスが増し、効率的な施設・装備にするチャンスと考え、気候変動対策と防衛力の維持・強化を同時に図っていくことを目指す」と位置付けている。

 

 化石燃料からの脱却を明確に打ち出していることと、国内で開発・製造・調達できる国産代替燃料によるエネルギーの自給体制の確立を打ち出すなど、経団連等よりも、気候変動対策としては明確なスタンスを示したといえる。ただ、防衛装備品での、ハイブリッド型戦闘車両やレーザー兵器、ウクライナの戦場でも盛んに活用されているドローンや無人機等へのシフトは、GHG排出量は少なくなるかもしれないが、戦闘の長期化やエスカレーションにつながるとすれば、どうなのかという疑問も生じる。

https://www.mod.go.jp/j/approach/agenda/meeting/kikouhendou/pdf/taishosenryaku_gaiyo_202208.pdf

https://www.mod.go.jp/j/approach/agenda/meeting/kikouhendou/pdf/taishosenryaku_202208.pdf