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岸田首相、GX移行債の財源確保で「炭素への賦課金と排出量取引市場を組み合わせるハイブリッド型」等の検討を指示。排出量取引の義務化、消費者負担も視野に(RIEF)

2022-10-27 14:52:19

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 政府は26日、2050年の脱炭素に向けた取り組みを議論するGX(グリーン・トランスフォーメーション)実行会議で、「成長志向型カーボンプライシング構想」を発表した。2050年ネットゼロを実現するため今後10年間で官民合わせて150兆円超の脱炭素投資が必要とし、そのうち20兆円を政府が新たに発行する「GX経済移行債(仮)」で調達して、企業に補助金等として供給する方針だ。GX債の償還財源をどう確保できるかが焦点になる。

 

 首相官邸で岸田文雄首相が出席して第3回GX実行会議を開いた。席上、岸田首相は①成長志向型カーボンプライシングは、炭素に対する賦課金と排出量取引市場を組み合わせるハイブリッド型とする②エネルギーに係る公的負担総額が中長期的にも増えないようにする③民間のみではリスク投資が困難な場合、新たな規制制度による市場づくりとGX債を活用した投資支援策を講ずる④国内の脱炭素投資やエネルギー関連技術の先導プロジェクトを最大限前倒しして、アジアの脱炭素事業に連結することで『成長も、環境も』の二兎を追うー-の4点を指示した。

 

 会議では、150兆円超の投資先について、▼「エネルギー供給の脱炭素化」事業として、再エネ導入(31 兆円)、原子力(1兆円)、水素・アンモニア(7兆円)、カーボンリサイクル燃料(3兆円)等で60兆円▼「産業構造転換」として、製造業の省エネ・燃料転換(8兆円)、脱炭素のデジタル投資(12兆円)、蓄電池(7兆円)、船舶・航空機産業の構造転換(7兆円)等で50兆円▼「消費者側の脱炭素」として、電気自動車(EV)等の次世代自動車(17兆円)、住宅・建築物の省エネ化(14兆円)等で30兆円▼「炭素固定技術の開発と実証」として、バイオものづくり(3兆円)、CO2回収・貯蔵(4兆円)等で10兆円、を計上している。

 

 これらの事業に投じる資金のうち、20兆円超を民間資金の「呼び水」として 「GX経済移行債」と名付けた国債の発行で調達する方針だ。焦点となるのはGX債の償還財源の確保だ。財源を担保できないと、赤字国債発行となり、すでにGDPの2倍以上に膨張している日本の財政を悪化させる要因になりかねない。

 

 そこで岸田首相が指示の①にあげたように、「炭素に対する賦課金と排出量取引市場の双方を組み合わせるハイブリッド型」等の形で、高炭素集約型企業が低炭素・脱炭素化を促すために、賦課金や排出量取引を導入して、それらからの収入を充当しようというのがGX担当の経済産業省の狙いとされる。

 

 ただ、化石燃料の利用や再エネの普及に伴う税や負担は今後減る方向にある。新たに導入を目指す排出量取引も、EU等が実践している法規制に基づく排出権取引ではなく、企業の自主的な参加を前提としており、GX債の償還財源を担保できるような安定した収入を得られるかは不明だ。経産省は、同制度の規制を徐々に強化していく方針とされるが、制度を強化すれば産業界の反発は高まる。

 

 炭素税で、消費者を含めて、広く浅く課税する案も想定されるが、高炭素集約型企業の移行の資金を、CO2排出量の少ない産業・企業に課税したり、最終的に消費者に転嫁する仕組みにするようだと、国全体の産業構造の転換を遅らせ、低迷する国内消費をさらに落ち込ませるリスクもある。

 

 会議に出席した鈴木俊一財務相は「GX債は、償還財源の範囲で発行する。内容について年末までに結論を得たうえで法制化すべきだ」と述べた。政府・与党は世論の動向も踏まえて、今後、慎重に議論を進める方向とされる。ただ、岸田政権は統一教会問題で政権運営の「信用力」が揺らいでおり、国内景気対応では円安抑制の見通しもなく、国民の所得・消費低迷の打開策も示せないことから、年末にまとめる与党税制改正大綱を巡る議論でも、GX債は主要な議題にはならない見通しと指摘されている。

 

  経産省が力を入れる排出量取引については、現在、東京証券取引所で試行実験が始まっており、同省は26年度の本格導入を目指すとしている。しかし、現行の制度は、産業界の負担に配慮し、制度への参加は自主的で、削減目標の設定も企業自身が行う等、「ゆるい」制度を目指している。

 

 これに対し、EU型の排出権取引制度は、政府が全体の排出量枠を設定(キャップ)し、それに基づいて各企業に排出許容枠を配分、達成困難な企業は、達成余力がある企業から余剰枠(クレジット)を購入(トレード)して、全体として相殺できる仕組みをとっている。政府は排出許容枠を入札で販売することで収入を得、その収入を国が主導するグリーン事業等に充当する。中国や韓国、米カリフォルニア州等も同様のEU型を採用している。

https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202210/26gx.html

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gx_jikkou_kaigi/index.html