HOME |公正取引委員会、電力市場で、大手電力と新電力の「公正な競争条件」が確保されているかを実態調査へ。大手電力による送電網の「継続支配」にメスを入れられるかが焦点(RIEF) |

公正取引委員会、電力市場で、大手電力と新電力の「公正な競争条件」が確保されているかを実態調査へ。大手電力による送電網の「継続支配」にメスを入れられるかが焦点(RIEF)

2022-12-15 16:04:51

koutori002キャプチャ

 

 公正取引委員会は14日、大手電力会社と新電力の公正な競争条件になっているかを調べる実態調査に乗り出すと発表した。2016年に電力小売りは全面自由化され、新電力各社が参入したが、送電網は実質的に大手電力の傘下にあり、新電力各社が不利な扱いを受けるケースが少なくないとされる。公取委の小林渉事務総長は「現在の市場や制度が抱える課題について競争条件確保の観点から改めて実態調査を行う」としており、大手電力からの送電網の完全分離、送電網のあり方等の議論が焦点になりそうだ。

 

 実態調査では大手電力の発電・小売部門のほか、新電力、送配電事業者など約130社を対象にして、アンケートや聞き取り調査を行う予定。調査の期限は設けていない。

 

 電力市場は2016年4月に、電気の小売販売市場が自由化された。これを受け、多くの新電力会社が自前の発電設備や、卸売市場からの電力調達等のビジネスモデルで小売市場に参入した。ただ、新電力各社が契約した顧客に電力を提供するには、大手電力の送電網を利用せざるを得ない。

 

小林渉・公取委総長=TBS NEWS DIG Powered by JNNより
小林渉・公取委事務総長=TBS NEWS DIG Powered by JNNより

 

 電力会社の送電部門は、2015年に成立した改正電気事業法で、2020年4月に「法的分離」が実施された。しかし「法的分離」と言いながら、実態は東京電力、中部電力は持ち株会社の下に送電子会社をぶら下げ、それ以外の大手電力は子会社としており、資本関係を維持したままだ。

 

 電力業に限らず、企業が自分のライバルの企業に対して、自分の軒先や設備の一部を利用させて便宜を図ることは、一般的に言って、あり得ないことになる。株主からも疑問が示される可能性がある。実際に、大手電力が新電力からの送電網利用の要請に対して、新電力側に不利な条件や、法外な接続料を要求する事例が各地で頻発した。

 

 だが、電力市場の効率化を高めるための市場の自由化の本来の趣旨からすれば、大手電力、新電力の両方が公平な条件で送電網を利用できる環境を整備しなければ、自由化の効果は十分には発揮されない。つまり、大手電力から送電網を「完全法的分離」しなければ、公正な競争条件を確保できないのは自明だ。

 

 しかし、制度改正を担った経済産業省は、大手電力が資本関係を維持したままでの送電部門分離を「法的分離」と称して、競争条件の確保を先延ばしにした。その理由の一つとして、大手電力が発行してきた社債の担保に各発電所や送電網等の資産がなっている点を指摘する説明がある。仮に送電網(担保資産)を切り出して売却すれば、社債購入者に対する詐害行為になるとの主張だ。

 

 だが英国のように、公的な送電会社を設立し、そこに各社の送電網を売却、電力会社に適正な売却収入が入る仕組みとすれば、社債購入者からの批判は起きないと思われる。また社債購入者は法的には株主ではなく、経営判断への賛否を示す権限は有していない。政策当局は送電網の法的分離の政策を設計するに際して、こうした諸課題を踏まえ、自由化効果を最大化する「解」を選択すべきところ、大手電力会社寄りの政策にシフトし、「名ばかり法的分離」策でお茶を濁した。こうした政策姿勢こそ、競争条件阻害の最大の要因といえる。

 

 競争条件が十分に確保されない構造の日本の電力市場では、競争による電力価格の低下が十分に見込めないうえに、新電力も競争力を強化するための資本投資を十分に行えなくなる。そうなると、電力網全体の安全性向上も進まず、電力市場開放の意義が色褪せてしまう。いや、すでに褪せ始めている。

 

 公取委がこうした「いびつな電力自由化政策」の行き詰まり構造を、適格に分析して、政策転換を含めた提言ができるかどうかだ。公取委の小林渉事務総長は「大手電力会社と新電力の間で、公正な競争条件の整備が確保されているかどうか。価格低下の利益を持続的に享受できることが重要との認識のもと、競争環境の整備が重要だ」と述べた。

 

 公取委は先に、大手電力のうち、中国電力、関西電力、中部電力、九州電力の4社が企業向けの電力販売でカルテルを結んでいたとの容疑で、各社に対して総額1000億円超の課徴金を科している。大手電力が自ら競争条件を阻害する動きに、遅ればせながらのメスを入れたわけだ。電力市場の活性化は、わが国の経済全体の競争力の向上と、社会生活の安定の土台となる。公取委の「実態調査」の結果に期待したい。https://rief-jp.org/ct10/130526?ctid=72

https://www.jftc.go.jp/soshiki/index.html