HOME10.電力・エネルギー |岸田政権「GX実行会議」で、GX経済移行債の発行方針決める。2023年度以降、毎年2兆円総額20兆円を発行。原発の建て替え、運転延長等に充当。「原発回帰策としてのGX」の色彩色濃く(RIEF) |

岸田政権「GX実行会議」で、GX経済移行債の発行方針決める。2023年度以降、毎年2兆円総額20兆円を発行。原発の建て替え、運転延長等に充当。「原発回帰策としてのGX」の色彩色濃く(RIEF)

2022-12-23 15:28:29

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  政府は22日、首相官邸でGX実行会議を開催、「GX実現に向けた基本方針」を採択した。我が国全体の脱炭素化を促進するためのファイナンスとして「GX 経済移行債」を2023年度以降、10年間にわたり総額20兆円分を発行する方針を決めた。同時に、原発はエネルギーの安定供給とカーボンニュートラル実現に向け重要な役割を担うとして、廃炉の決定した原発の建て替え、既存原発の運転期間を最大20年延長を認める措置を導入するとした。


写真は、22日の「GX実行会議」で原発新増設・稼働延長を決めた岸田首相。㊧は西村経済産業相)

 

 GX移行債については、今後10年間で150兆円超のGX投資を官民協調で実現するため、国が20兆円を先行投資するとの位置づけだ。資金使途先は、①再エネや原子力等の非化石エネルギーへの転換②鉄鋼・化学など製造業を始めとする需給一体での産業構造転換③抜本的な省エネの推進④資源循環・炭素固定技術等の研究開発等、を列挙している。原発を優先事項に挙げている点で、「GX=原発回帰策」であることを明確にした。

 

 原発については、建て替えと運転期間延長の両方を示した。このうち建て替えは、新規建設原発の建設費用が、安全性強化策の影響で、世界的に高騰しているうえに、わが国の場合、新規原発の建設用地が容易には見当たらない課題もある。現行原発が廃炉となった後に建設する場合も、廃炉作業には20~30年かかるため、同作業中は新規建設は事実上不可能になる。したがって、実務的には既存原発の運転延長政策が中心になりそうだ。

 

 わが国の既存原発は、東京電力福島第一原発事故後、安全対策を強化したものの、システム全体が旧式であるうえに、運転期間が40年を超えるものをさらに延長する方針なので、故障、修理等のメインテナンス作業が重要になる。電力の70%を原発が占めるフランスでは、56基の原発のうち今年下期には6割近い32基がメインテナンスのために休止した。要因は老朽化の影響で故障等が増えているためで、原発再稼働の遅れが同国のエネルギー危機の一因になっている。岸田政権の「原発回帰のGX策」には、こうした現実の危機に対する備えは明記されていない。

 

 GX移行債については、従来の国債(建設国債、特例国債、復興債等)と同様に、同一の金融商品として統合して発行するとした。そのうえで、「国際標準に準拠した新たな形での発行」も目指すとしている。ただ、新国債が準拠するという具体的な国際標準については示していない。①市場での一定の流動性の確保②発行の前提となるシステム上の対応③調達資金の管理体制等を整備する、とし、そのための関係省庁による検討体制を発足させるとした。

 

 同国債の償還財源としては、カーボンプライ シング制度を導入する。導入を提案する制度は、炭素多排出産業を中心に、企 業が自ら設定する削減目標に基づいた「排出量取引制度」と、同産業以外の企業から幅広く徴収する「炭素賦課金」を並行して実施する方針を示している。賦課金については、現行の石油石炭税収のほか、固定価格買取制度(FIT)に基づき電力消費者が負担している再エネ賦課金等を置き換える形で、2028年からの導入を想定している。

 

 企業の自主的削減目標に基づくGX排出量取引制度は2023 年度から試行的に開始するとした。ただ、自主的目標への適合は企業にとって容易であることから、実際の排出枠の取引が十分に行われるとは思えない。そうした懸念を想定してか、2026年度以降の「排出量取引制度本格稼働」の際に、電力業界を対象として、排出量の多い発電事業者に対する「有償オークション」制度を段階的に導入するとしている。

 

 同制度は、発電事業を行う事業者には、当局から発電に必要な温室効果ガスの排出枠の取得を義務付けるというものだ。EUが排出権取引制度(EU-ETS)で2005年から始めた制度をようやくコピーすることになる。排出枠は、まず対象となる電力会社に無償で交付し、 段階的に有償比率(入札)を上昇させるとしている。段階的導入の開始時期は2033年度と提案している。

 

 同制度の運用で先行しているEUは、すでに無償枠の配分を段階的に止める方針を示したうえで、それと連動する形でカーボン国境調整メカニズム(CBAM)の導入を2027~28年に予定している。CBAMの対象産業については、第一弾として、鉄と鉄鋼、セメント、アルミニウム、肥料、電力の5業種をあげている。

 

 日本の対応はEUに比べて一周どころか、3周も4周も遅れていることから、これらの産業、およびEUの第二弾以降の産業に属する日本企業は、国内に「同等の制度」が稼働していない段階は、CBAMの適用対象となり、EUに賦課金を払うことになりそうだ。

 

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gx_jikkou_kaigi/dai5/index.html

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gx_jikkou_kaigi/dai5/siryou1.pdf