HOME |日本の「GX」戦略のアジアへの押し付けは、アジアのエネルギー移行を『脱線させる』。アジアの市民団体の代表等が、日本政府のGX、およびAZEC構想を批判(RIEF) |

日本の「GX」戦略のアジアへの押し付けは、アジアのエネルギー移行を『脱線させる』。アジアの市民団体の代表等が、日本政府のGX、およびAZEC構想を批判(RIEF)

2023-03-04 23:27:04

Japan001キャプチャ

 

   日本政府が高炭素集約産業を対象としたGX( グリーントランスフォーメーション)実行戦略をアジアにも拡大する「アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)」構想を打ち出したことに対して、東南アジアの市民団体の代表等が「日本の計画は、化石燃料ベース技術に依存する『欠陥だらけのGX』の実験をアジアで行おうとするもので、我々に対する『侮辱』だ」等と批判する意見を公表した。日本政府は4日、東京でAZECの閣僚会議を開き、GXのアジアへの拡大をアピールしたが、アジアで信頼を得られるかは不明な状況だ。

 

 Gerry Arances氏(フィリピンのThe Center for Energy, Ecology and Development代表兼The Power for People coalition and the Executive Director of 議長)と、Dwi Sawung氏(インドネシアのWALHI – Friends of the Earth IndonesiaのInfrastructure and Spatial Planning Campaign Manager)の両者が、英Climate Home Newsに「日本のGXはアジアのエネルギートランジションを『脱線』させるだろう」と題した記事を共同執筆した。

 

 記事では、「これまで日本の官僚たちは何年にもわたってフィリピンとインドネシアで、日本の企業に利益をもたらす『汚れた石炭火力発電』の建設事業を促進してきた。そうした日本の官僚たちに対するアジア各国の市民等による何年もの抵抗は、フィリピンからバングラデシュ、インドネシアに及び、ついに昨年、日本政府をして、アジアの自然豊かだが、気候変動には脆弱な国々に対する『汚れた石炭技術』の輸出を停止させることに成功した」と指摘。日本の「石炭戦略」からようやくアジアが解放されたことを評価した。

 

4日、都内で開いた経産省主催のAEZC会議にビデオメッセージで参加した岸田首相=共同
4日、都内で開いた経産省主催のAEZC会議にビデオメッセージで参加した岸田首相=共同

 

 「しかし」と続け、岸田政権によるGX戦略のアジアへの「押しつけ」に対して強い懸念を示すとしている。「日本のGX戦略は、『グリーンウォッシングの演習』であり、化石燃料の拡大と使用に大きく依存している」と分析。特に、GX戦略が国内の鉄鋼や化学、セメント等の高炭素集約産業の脱炭素化を進めるとするだけでなく、「世界の排出量の半分以上を占めるアジアのGXの実現に貢献すべくAZEC構想を実現していく」と基本構想でうたいあげていることに警戒を示している。

 

 両氏は「日本政府は『欠陥GX戦略(flawed GX strategy)』がアジアのエネルギートランジションを支援するとするが、それらの支援想定の内容は、液化天然ガス(LNG)を含み、石炭火力でのアンモニア混焼・水素、CCS等の化石燃料の使用を前提とする旧来の技術に依存している」と問題視する。

 

 「これらの技術は、再生可能エネルギーによるソリューションが、化石燃料よりも、より安く、より信頼でき、より利用可能な段階にすでになっているのに、化石燃料の使用をさらに延命させることになる。気候災害を避けるには、世界の気温上昇を『1.5℃』にとどめる目標の達成が必要だが、(GXによる)化石燃料の使用延長は、排出量削減につながらない。多くの投資家は日本の戦略と、日本政府が発行しようとするGX移行経済国債の『グリーンウォッシング』に懸念を抱いている」と述べた。

 

 「にもかかわらず」として、日本政府が主導して、化石燃料技術を促進するために、AZECの閣僚会議を日本で開いたうえ、今年のG7(先進7カ国首脳会議)の議長国として、LNGや天然ガス採掘のほか、アジアでの『汚れたエネルギー戦略』を進めている、と懸念を強調した。特に日本政府が石炭に代えて強調する水素、アンモニア技術は、いずれも「グリーン性」がなく、化石燃料から製造される点を指摘している。

 

 日本政府の新たな「アジア・エネルギー戦略」を背景に、すでにフィリピンでは34のガス火力発電所計画と、11のLNG輸入ターミナルの新規建設計画が打ち出されている。これらの多くは、同国のルソン島とミンドロ島の間にあるベルデ島水路にあるバタンガス地域での開発が予定されている。同地域一帯は生物多様性の豊かな地域であり、自然の生態系破壊と地域社会への負の影響が懸念されるとしている。同地域でのガス開発計画に参画している日本の官民機関は、国際協力銀行(JBIC)、大阪ガス、みずほフィナンシャルグループ等と指摘した。

 

 一方、インドネシアでも、国際協力機構(JICA)がジャカルタ市でのカーボンニュートラル計画の「支援」をしている。だが、実際は『汚れた化石燃料』技術の「テストの場」になっていると批判。LNG開発、水素・アンモニア混焼、CCSの「化石燃料延命3点セット技術」の導入の実験場化しているという。また三菱重工はジャワ島Bantenにあるスラヤマ石炭火力発電でアンモニア混焼のテストを実施しており、地域住民に対する健康悪影響や生活環境の悪化を長期化させるだけとしている。

 

 こうした実態を指摘したうえで、両氏は「日本はこれらの技術を『最新技術』としてアジアの国々に売りつけようとしているが、その軸になる技術は、われわれを混乱に導いてきた『汚れた化石燃料技術』そのもので、グリーンウォッシング以外の何物でもない。それらをアジア各国に持ち込む日本の『汚れたエネルギー戦略』に対して、強く反対する」と結んでいる。

 

 日本国内でもGX戦略に対する高炭素排出産業等からの「期待」の一方で、「疑念」「懸念」を示す向きも少なくない。ただ、野党を含めて、明確に「戦略の信憑性」を問いただす論調はあまりない。これに対して、これまで日本の化石燃料事業の拡大による地域社会の分断や健康影響被害等を受けてきたアジアの人々には、一部の産業界を除いて「期待」はほとんどなく、「GX=グリーンウォッシュ」の説明は説得力があるようだ。

https://www.climatechangenews.com/2023/03/02/japans-green-transformation-would-derail-the-energy-transition-in-asia/

https://ceedphilippines.com/

https://www.foei.org/member-groups/indonesia/