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G7気候・エネルギー・環境大臣会合。英国が新たに2030年で国内石炭火力発電停止を提案。行き詰まる国際的化石燃料エネルギー部門への新規公的支援停止を「先延ばし」意図か(各紙)

2023-04-12 15:33:00

G7002キャプチャ

 

 各紙の報道によると、今週末に札幌で予定されるG7の気候・エネルギー・環境大臣会合の論点となっている化石燃料エネルギーの扱いを巡り、新たに英国が削減対策を施していない国内の石炭火力発電所を2030年までに廃止することを盛り込むよう求めていることがわかった。同提案は同時に、計画中の国際的な石炭火力発電所の停止も含めるという。同会合では昨年のG7会合で合意した国際的な化石燃料エネルギー部門への新規の公的直接支援を2022年末までに停止させる公約の担保をめぐる対立が続いている。

 

 英国の新たな提案についてはBloombergが報道した。それによると、同案は11日にG7の交渉関係者に示されたとしている。同案に対しては、フランスが賛成したが、米国、EU、日本がそれぞれコミュニケに盛り込むかどうかの判断を留保したとしている。ドイツは同案に対する代替案として、廃止(phase out)の表現を「理想的には2030年まで」あるいは「2030年代中」と修正する案を示したとしている。

 

 同案については、国内の石炭火力の廃止時期の明示だけではなく、国際的な化石燃料エネルギー部門への新規の公的直接支援の停止時期の先送りも意図されているようだ。議長国日本が議論の膠着状態を打開する調整ができないことを受けて、英国が助け舟を出したとの見方もできる。

 

 議長国の日本は引き続き、昨年のG7首脳会議のコミュニケで「2035年までに電力部門の完全または大宗の脱炭素化の達成にコミットする」とした表現の再確認を主張し、閣僚会議での合意である国際的な化石燃料エネルギー部門への新規の公的直接支援停止公約を実質、骨抜きにすることに固執しているという。https://rief-jp.org/

 

 同時に日本は、GX戦略の軸となる石炭火力へのアンモニア混焼、ガス火力への水素混入を「排出削減対策」として盛り込むことにもこだわっているという。しかしアンモニアの混焼については温暖化効果がO2よりも大きく、大気汚染の原因にもなる二酸化窒素(NH2)の排出増等の課題がある。サイエンスベースのソリューションになるかどうかで、他の国々から疑問が示されているようだ。

 

 さらに、日本はロシアのウクライへの侵攻によってグローバルなエネルギー危機が表面化したことを踏まえ、天然ガスおよびLNGを「アフォーダブルなエネルギー供給を確保するため」のエネルギー・ギャップ克服(bridge the gap)手段として盛り込むことも求めているという。この日本案には米国のエネルギーロビイストが支持しているとされる。しかし、欧州諸国と米国はともに「天然ガスはそれによってようやく、ネットゼロにシフトできる国々にのみ適用されるトランジション(移行)エネルギー源とするべき」として日本の提案に難色を示しているとされる。

 

 英国案は日本の調整力への対応だけではなく、他の国々の「内情」にも配慮した形でもある。EUでは中東欧諸国の脱石炭火力からの脱却が技術的、経済的に困難な状況にある。米国も、政治的に共和・民主両党が連邦政府で拮抗しており、米国の伝統的エネルギーである石炭の終焉を明確にすることへの政治的反発への懸念もあるようだ。

 

 いわば英国は、G7各国がそれぞれ抱える自国の「都合」に配慮して、課題解決を30年あるいはそれ以降に先送りすることをもくろむ、英国一流の「知恵(悪知恵だが)」を示したものなのかもしれない。

 

 ただ、先進国が化石燃料エネルギー対策で、自国の「都合」を優先して、昨年のG7での公約を棚上げしたり、石炭火力発電の停止を2030年あるいは30年台にまで先送りするとなると、11月に予定されている国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)において、新興国や途上国等からの反発が高まることは免れない。

 

 中国やインド等の排出量の多い新興国からも「自国の都合」による対策の緩和要求が出る可能性がある。その場合、先進国はこれらの国々に対して、追加的な排出削減を求めにくくなる。また気候変動対応の遅れで自然災害増大等の被害を被るアフリカや島嶼部諸国等からは、緩和対策の遅れにより増大する気候自然災害のコスト負担増の要求が再び高まる能性もある。

 

 G7先進各国の「迷走」は、ひとえに議長国日本が、技術的にも科学的にも疑問を抱えているGX政策を、強引にコミュニケに盛り込もうとする「グリーンウォッシュ」政策を巡って生じ、迷走度を増しているともいえる。

https://www.bloomberg.com/news/articles/2023-04-10/g-7-nations-tussle-over-bid-to-phase-out-coal-power-by-2030#xj4y7vzkg