HOME10.電力・エネルギー |経済産業省、大手電力各社による送配電子会社の顧客情報不正閲覧問題で、関電等に業務改善命令。改善は「3年以内。事情があれば延長可」の緩さ。同省の「政策改善」こそ必要(RIEF) |

経済産業省、大手電力各社による送配電子会社の顧客情報不正閲覧問題で、関電等に業務改善命令。改善は「3年以内。事情があれば延長可」の緩さ。同省の「政策改善」こそ必要(RIEF)

2023-04-18 02:48:05

keisann003キャプチャ

 

 経済産業省は17日、大手各電力会社傘下の送配電会社が管理する新電力の顧客情報を、電力の営業会社の社員が継続的に不正閲覧していた問題で、関西電力等の5社に電気事業法に基づく業務改善命令を、東北電力等の6社に業務改善勧告をそれぞれ出した。関西電力については、不正に入手した情報を営業活動に利用していたと認定した。ただ、改善命令では不正の要因となった「情報の共有状態」の改善を「3年以内」とし、「合理的な理由があれば期間の延長も認める」との緩い内容にとどまった。

 

 電力会社の不正閲覧の基本的な原因は、同省が実施した発送電の法的分離が機能していなかった点にある。再発防止には、現行の法規制を改正し、送電会社を電力会社から切り離す所有権分離の実施が不可欠だ。「業務改善」よりも「政策改善」が求められる重大なテーマだ。

 

 業務改善命令は、関電と関西電力送配電、九州電力、九州電力送配電、中国電力ネットワークの5社を対象とした。業務改善勧告は、東北電力、東北電力ネットワーク、中部電力パワーグリッド、中部電力ミライズ、中国電力、四国電力の6社。

 

 電力会社の送配電会社は経産省が運営する再エネ買取制度(FIT)の発電事業者のデータベース「再エネ業務管理システム」へアクセスすることが認められている。FITを利用する新電力等の事業者と契約し、送配電網に接続させるための情報確認に必要なためだ。しかし、電力会社の営業会社と新電力は顧客獲得の面で競争関係にある。

 

 電力会社の営業会社の社員は、データベースへのアクセスは、送配電会社に限って認められていることを知りながら、同じ持ち株会社傘下の送配電会社に働きかけて不正に閲覧していた。同種の不正行為は、今回業務改善命令や勧告の対象となった電力各社だけではなく、既存電力10社すべてで実施されていた。構造的な不正だった。https://rief-jp.org/ct10/132933?ctid=72

 

 今回の経産省の処分では、「悪質性」に基づいて、業務改善命令と、勧告を使い分けた形だが、「悪質性」の程度の差はあっても、基本的には、電力分離の不備を突いた不正情報入手という手口では同じだ。報道によると、資源エネルギー庁の保坂伸長官は業務改善命令を出した5社の社長に対して「電気事業の中立性や信頼性に疑念を抱かせる状況をつくり出した」と指摘したとされる。

 

 だが、電力会社の担当社員をそうした行動に走らせたのは、経産省の政策の「甘さ」にあるのではないか。持ち株会社の傘下に、送電会社と営業会社を並列でぶら下げ、かつ各傘下子会社間の人事異動も、自由に認めてきた経産省・資源エネルギー庁の電力自由化政策の不備と、その後の、会社に対する監督体制の不備が、電力会社の社員たちを「非行」に走らせたのではないか。https://rief-jp.org/ct5/133180?ctid=72

 

 関電等への業務改善命令では、関電と同送配電会社の両方に対して、送配電会社が保有・管理するFIT関連情報(新電力との契約情報)閲覧の共用状態を速やかに解消する計画を立案し、5月12日までに提出するよう求めた。だが、その「速やかに」の指示についても、首を傾げたくなる内容だ。

 

 「速やかに」の期間について「約3年以内を想定」としたうえで、「合理的な理由があり約3年以内に共用状態を解消することが困難である場合は、その旨を記載すること」としている。こうした「甘い命令」は、その間、不正情報入手の手口を容認する意味にも受け取れる。さらに「付言」によって、3年以上の共用を認める可能性も「あり」と読める。

 

 送電会社が保有する競争相手の新電力の顧客情報等を盗み見していたのは、完全に法律違反である。そうした共用状態を許すこと自体、電力事業者の監督官庁としては、あり得ない判断だ。経済産業省資源エネルギー庁の担当者たちは、電力政策の立案者、電力産業の監督者として、ほぼ「失格」と言わざるを得ない。こうした役所に対しては、本来は政治が「政策改善命令」を迅速に発出すべきなのだが、問題はわが国の政治の責任者たちに、そうした危機感が乏しい点だ。現下の「日本の政策の機能不全」を象徴するような「残念な事例」だ。

                           (藤井良広)

https://www.meti.go.jp/press/2023/04/20230417006/20230417006.html

https://www.meti.go.jp/press/2023/04/20230417007/20230417007.html

https://www.meti.go.jp/press/2023/04/20230417005/20230417005.html