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米環境保護庁(EPA)。石炭・天然ガス等の化石燃料火力発電所の排出規制案公表。新規、既存両方にCCSや水素混焼を義務化。EPA権限での実施可能と強調。共和党等の反対必至(RIEF)

2023-05-12 14:44:09

Apowerキャプチャ

 

 米環境保護庁(EPA)は11日、石炭・天然ガス等を燃料とする化石燃料火力発電所からのCO2排出量を削減するため、CO2回収貯留(CCS)設備の設置や、クリーン水素の混焼等を義務付ける規制案を公表した。新規制によりCO2排出量を28〜42年の間に6億1700万㌧削減できるほか、健康被害の大幅な減少も期待できるとしている。ただ、発電所に対する温暖化対策の強化に対しては、共和党が反対しているほか、米最高裁判所が2022年6月、EPAに発電所の排出削減を指示する権限はないとの判断を下しており、EPAの規制実行は容易ではないとみられる。

 

 EPAが公表したのは、大気清浄化法(CAA)111条に基づく「化石燃料火力発電所の温室効果ガス(GHG)排出基準とガイドライン」案。同法に基づく「新規資源パフォーマンス基準(NSPS)」の改正案と位置付けている。規制案に対しては60日間のパブリックコンサルテーション期間を設ける。

 

 同案によると、対象となるのは、新規の化石燃料火力発電所とガス化発電所の改造、既存の石炭、石油・ガス等の化石燃料ガス化火力発電所、大規模な既存の火力発電所とする。新規と既存のガス火力発電所については、①2035年までにCO2の90%を回収するCCS装置を導入②水素を32年までに30%、38年までに96%混焼③高度な発電効率化技術の導入――等の対応を義務付ける。

 

 新規制が導入されると、28〜42年間で石炭火力と新設ガス火力から削減が想定される6億㌧強のGHG排出量は、乗用車1億3700万台分の年間排出量に相当するとしている。この数字は、米国のすべての自動車のほぼ半分からの排出量に相当する。また排出削減規制により、PM2.5や硫黄酸化物等の汚染物質の排出も減ることから、42年までに、喘息や早死等の健康被害減少による国民が得るベネフィットは850億㌦になると推計している。

 

 電力会社には新規制への対応のための「十分な猶予期間」と「コンプライアンス上の柔軟性」を提供するとしており、電力会社や送電会社が、電力供給に際して信頼性の高い、手ごろな価格の電力を供給し続けながら、長期にわたる健全な計画立案と投資判断ができる、と指摘している。EPAの分析では、電力会社は新規制への対応で電力小売り価格にほとんど影響を与えず投資実行ができると推計している。

 

 EPA長官のマイケル・レーガン氏は「新たな化石燃料火力発電所に対する基準を提案することで、EPAは人々の健康と生活を脅かす有害汚染を減少させるというミッションを実践できる。今回の提案は、CO2汚染を減少させるために、すでに証明され、かつ利用可能な技術に基づいており、さらに電力部門がクリーンな未来に向けて進めている取り組みに沿ったものだ」と指摘、電力会社にとっても対応可能な取り組みである点を強調している。

 

 GHG排出の主要発生源である火力発電所への排出規制については、オバマ政権時代に、EPAに石炭火力のCO2排出規制を求めたクリーン・パワー・プラン(CPP)を立案したが、トランプ政権時代に廃案になっている。CPPをめぐっては連邦議会での規制法ではなく、EPAの行政権限に基づく規制としたことから、同規制の有効性をめぐる訴訟の結果、昨年6月に連邦最高裁判所が「EPAに発電所の排出を削減させる権限はない」との判断を示した。

 

 こうした経緯を踏まえ、EPAでは今回のの規制案の提案に際して、導入するのは新規の規制ではなく、既存規制の改正の形を取り、かつ、CAA法では発電所に導入する技術の基準はEPAが定めることが認められているとして、批判に対応する構えをとっている。ただ、こうしたEPAの解釈に対して共和党が承服するとは思えず、連邦議会で紛糾するとみられるほか、新たな法廷闘争になる可能性もある。

 

 全米の電力会社等で組織する業界団体の「America’s Power」は、「EPAの提案は、経済性に乏しく、広範囲な使用に疑問のある技術(CCS)の利用を強制する権限がEPAにあるのかということを含め、多くの重要な法的疑問を提起する。石炭火力を早期閉鎖を進めることで生じる影響の一つは、電力不足のリスクを高める点だ。EPAに対して、石炭火力の早期閉鎖を促進して電力網の信頼性を悪化させるよりも、そうした早期閉鎖を避けるための提案に切り替えることを強く求める」と反論している。

 

 EPAの新規制を巡る議論はわが国にも微妙に影響を及ぼしそうだ。CCSの評価をめぐって、EPAは信頼できる技術とする一方で、電力業界はコスト高に加えて、技術的フィージビリティへの懸念を示している。日本政府のエネルギー基本計画では、CCSや水素混焼を前提に化石燃料火力発電所の操業を2030年以降も持続させることを目指しており、環境NGOらから批判が出ている。米電力業界とNGOの立場は180度異なるが、CCSが「使えない技術」とする点では共通することになる。https://rief-jp.org/ct8/126266?ctid=

https://www.epa.gov/newsreleases/epa-proposes-new-carbon-pollution-standards-fossil-fuel-fired-power-plants-tackle

https://www.epa.gov/stationary-sources-air-pollution/greenhouse-gas-standards-and-guidelines-fossil-fuel-fired-power

https://americaspower.org/press_release/americas-power-statement-on-epas-proposed-rule-to-limit-carbon-emissions-from-power-plants/