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EU欧州委員長のフォンデアライエン氏。気候担当委員にフークストラ氏指名。財政タカ派の同氏の起用は、COP28で途上国が求める「Loss&Damage基金」への拠出抑制のための見方も(RIEF)

2023-09-01 15:16:30

Fuksutoraキャプチャ

 

  EU欧州委員会のフォンデアライエン委員長は、辞任したフランス・ティメルマンス氏の後任の気候担当委員に、同氏の代わりにオランダから選出された欧州委委員のウォプケ・フークストラ(Wopke Hoekstra)氏を指名すると発表した。先にティメルマンスの後任の筆頭副委員長に指名された同委の機構間関係・行政担当委員のスロバキア出身のマロシュ・シェフチョビッチ(Maroš Šefčovič)氏は、気候政策も所管とする筆頭副委員長としてフォンデアライエン委員長を支える形となる。

 

 気候担当委員に指名されたフークストラ氏は欧州議会環境委員会での承認を得て正式に就任することになる。ティメルマンス氏が担っていた筆頭副委員長と気候担当委員の役割を、実質的に、後任のシェフチョビッチ氏とフークストラ氏とに二分することになる。https://rief-jp.org/ct5/138401 https://rief-jp.org/new/138057?ctid=0

 

 フークストラ氏は7月に総辞職したルッテ政権で外相を務めていた。オランダ政党の右派の「キリスト教民主アピール(CDA)」の党首。ルッテ連立政権で、これまで財務相、外相のほか、第二副首相も務めた経験がある。政権に参画する前はマッキンゼーのパートナーとしても活躍、それ以前はシェルの幹部でもあった。

 

 ただ、同氏は経歴でもわかるように、企業のスタンスを踏まえた右派の政治家であり、特に財政面ではタカ派として知られている。気候変動対策で企業の排出量削減を一段と踏み込むことが求められる現状で、EUとして途上国の財政支援等の要求を受け入れて、グローバルな気候対策を進展させるというこれまでEUが演じてきた役割を十分に果たせるかという点で疑問視する向きもある。同氏自身、気候政策の分野でもこれまで明確なスタンスは示してきていない。

 

 同氏にとっての最大のハードルは、11月に迫っている国連の気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)だ。同会議では、昨年のCOP27で合意された気候変動による損失と被害(Loss & Damage)対策の基金への先進国の拠出額を決めることが求められる。途上国側は先進国全体で「緑の気候基金(GCF)」と同規模の1000億㌦の拠出を求めている。財政難に直面し続けている先進国側がこうした要求にどう応えるかが焦点だ。

 

 「財政タカ派」のフークストラ氏が気候政策とEUの財政を両にらみしながら、途上国側の納得を得られるような合意を主導できるか。あるいは、ティメルマンスの後任指名で、現委員会の副委員長でもあるシェフチョビッチ氏ではなく、あえて「新顔」のフークストラ氏を気候担当に指名した点で、欧州委自体も途上国の要求に対抗する構えをとったとの見方もできるかもしれない。https://rief-jp.org/ct5/138269?ctid=0

 

 オランダの環境NGOの間では、フークストラ氏がこれまで気候対策にほとんど実績がないほか、かつてはエネルギー企業のシェルに在籍していたことなどから、警戒感を示す向きが少なくない。Greenpeace EUのキャンペイナーのSilvia Pastorelli氏は「同氏には信頼を置けない。財務相時代も窒素酸化物(NOX)排出削減政策を攻撃した経歴がある」と指摘。NOX規制緩和は、同氏が所属するCDAの支持団体である農業団体の主張を踏まえたものだった、と指摘している。

 

 欧州議会環境委員会での承認を得るには、同委員会所属87人の欧州議員の3分の2の支持を得ることが必要。現在のところ、フォンデアライエン委員会を支持する欧州人民党(EPP)所属の議員は議会同委員会では4分の1しかいない。欧州議員等からはフークストラ氏の指名拒否の可能性も指摘されているという。

https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/statement_23_4293