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メキシコ初の女性大統領のシェインバウム氏。IPCCメンバーも務めた「エネルギー・環境学者」。メキシコの気候政策強化の期待高まるも、「化石燃料重視」の前任者の影響大(RIEF)

2024-06-04 01:16:41

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写真は、3日にメキシコシティで勝利を祝うメキシコのシェインバウム次期大統領=AFP時事)

 

  メキシコで初の女性大統領として、クラウディア・シェインバウム(Claudia Sheinbaum)氏(61歳)が選ばれた。同氏は、気候学者としても知られ、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2007年に、ノーベル平和賞を受賞した際のIPCCメンバーでもある。気候変動の影響は同国でも深刻で、国民は、干ばつ、熱波などの気候リスクにさらされると同時に、従来型の大気汚染のスモッグにも長年悩まされている。新大統領の気候対策への期待が高まるが、同氏を取り巻く政治状況は微妙な環境にあるようだ。

 

 シェインバウム氏は両親とも科学者というユダヤ人家庭の生まれだ。物理学の専門家としてメキシコ国立自治大学(UNAM)で修士号を、1990年代初めには、カリフォルニア州のローレンス・バークレー国立研究所で博士号を取得。エネルギーエンジニアリングのPhDを得ている。バークレー研究所での博士論文はメキシコシティの交通部門におけるエネルギー排出と環境問題をテーマとした。その後UNAMで研究者を務めてきた。

 

 研究者としては、エネルギーと環境の両分野で100本以上の論文を発表しているほか、エネルギーと環境、サステナブル開発の両分野に関する書籍も2冊発行している。

 

 政治との関係は、現大統領のアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(AMLO)氏がメキシコシティの市長時代に、同氏の推薦で30代の若さで市の環境長官を務め、「師弟」のような関わりを持った。その後、いったんUNAMに戻り、2007年と2014年の主要なIPCC評価報告書の排出削減部門の執筆チームに加わった。同報告書で、彼女が執筆したメキシコの製造業とセメントの排出量に関する研究内容が引用されている。2018年には英BBCが選ぶ「100 Women」の1人に選ばれている。

 

 研究者としての顔と、政治家としての顔の両方を持つシェインバウム氏が、徐々に政治家の方にシフトしていくのは、AMLO氏の影響が大きい。同氏は、政治家として中道左派または左翼政党民主革命党(PRD)に所属していたが、2012年9月に離党し、2014年に新たな左派政党の国家再生運動(Morena)を立ち上げる。

 

気さくな人柄も
気さくな人柄も=日本経済新聞から

 

 シェインバウム氏は、AMLO氏の誘いを受けて、新政党から政界に復帰し、2018~2013年にかけてAMLO氏の後を受ける形で、メキシコシティの市長を務めている。今回、そうした経験を足場として、大統領選挙に打って出たわけだ。シェインバウム氏は国民の人気の高いAMLO氏の「愛弟子」を自任しており、大統領選出馬に際しては、AMLOの絶大な支持を受けた。

 

 だがそのAMLO氏のエネルギー・環境対応は、脱炭素とは「逆方向」とされる。メキシコ自体は2012年に途上国でも最も早い時期に気候変動法を成立させるなど、「気候変動対策のフロントランナー」としての高い評価を得るなどの実績で知られてきた。しかし、大統領に就任したAMLO氏は、従来の気候変動政策を全面見直した。国内の化石燃料資源の生産を促進、特に「エネルギー主権」を掲げ、電力会社CFEと石油・ガス大手PEMEXの両国有企業による独占経営を後押しした。

 

 石油・ガスのインフラ事業に国費を数十億㌦規模で投じて、化石燃料開発に力を入れる一方で、太陽光発電等の再生可能エネルギー事業への民間企業の投資には消極的な対応をとってきたとされる。そうした結果、現在、同国はG20諸国の中でネットゼロ目標を掲げていない2カ国のうちのひとつとなっている。2030年の排出削減目標も「水増ししている」との批判がある。

 

 メキシコシティ―の市長時代のシェインバウム氏は、太陽光発電事業を推進するなど環境政策を重視した。しかし、メディアの報道によると、UNAMの同僚でもある気候科学者ルース・セレソ=モタ(Ruth Cerezo-Mota)氏は「シェインバウム氏が市の深刻な大気汚染問題を解決しようとする兆候は見られなかった」と述べている。

 

 また同じUNAMの気候科学者で、IPCCの第5次評価報告書でシェインバウム氏と一緒に執筆に加わったクルス・ヌニェス(Cruz Núñez)氏は「市長としてのシェインバウム氏の気候変動対策は『最小限』のものだった」と評価。むしろ市長のリーダーシップで、ディーゼルエンジンのバスシステム導入、水不足、都市化の進展、市周辺の自然保護地域での「無秩序な」建設等の環境負荷が増大したと指摘している。

 

 同国の政治アナリストからは、シェインバウム氏がAMLOと政治的に連携していることが、彼女がより野心的な気候変動対策を追求する可能性を妨げる、との指摘も出ている。シェインバウム氏は選挙期間中、自然エネルギーの活用も主張した。その一方で、AMLO氏が推進してきた国営のエネルギー2社を軸にエネルギー転換を進めるとの考えも強調した。「グリーン・トランスフォーメーション(GX)」と言いながら、再エネ支援よりも化石燃料火力発電等の延命を重視するどこかの国と、似たような政策スタンスのようでもある。

 

 大統領選挙の公開討論会では、野党連合のソチル・ガルベス上院議員から、シェインバウム氏の後ろ盾である現大統領(AMLO氏)が麻薬組織に資金を渡していたという疑惑に関連しているとして「ナルコカンディダタ(薬物に汚れた候補者)」などの攻撃を受けた。だが、そうした批判にもたじろかず、冷静にかわす「政治家ぶり」も発揮した。

 

 メキシコの政界では、大統領の座を降りるAMLO氏が引き続きシェインバウム氏の後ろ盾となり、「院政」を敷くとの見方もあるようだ。だが、シェインバウム氏はそうした声に対して「そうしたことは真実ではない。国を治めるのは私なのだ」ときっぱりと宣言。「公正で、より豊かなメキシコを建設するために歩み始めよう」と述べ、国民の団結を訴えた。10月1日に正式に就任する。任期は6年。

https://www.jiji.com/jc/article?k=2024060300627&g=int&p=20240603at74S&rel=pv

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN0302D0T00C24A6000000/?type=my#AAAUAgAAMA

https://en.wikipedia.org/wiki/Intergovernmental_Panel_on_Climate_Change