HOME |気候対応や脱炭素を標榜する「グリーン株投資ファンド」、その過半はパリ協定の目標と不整合。大手機関で「最悪」は米ステートストリートのファンド。英シンクタンクが分析(RIEF) |

気候対応や脱炭素を標榜する「グリーン株投資ファンド」、その過半はパリ協定の目標と不整合。大手機関で「最悪」は米ステートストリートのファンド。英シンクタンクが分析(RIEF)

2021-08-29 00:04:40

IM0033キャプチャ

 

 気候変動対応や低炭素、脱炭素等をテーマとした「グリーンファンド(株投信)」がグローバルに増大しているが、これらのファンドの過半はパリ協定の目標に適合していない、との分析結果が公表された。主要資産運用機関の比較では米ステートストリートのファンドが「最悪」だった。ファンドの名前と実態が一致しない理由としては、インデックス投資を重視するパッシブ運用の影響で、結果的に炭素集約型企業が投資対象に盛り込まれる形になっているという。

 

 調査はロンドンを拠点とする非営利シンクタンクのインフルエンスマップ(Influence Map:IM)が行った。IMは仏シンクタンクの2°Investing Initiative(2II)が開発した「Paris Agreement Capital Transition Assessment (PACTA)」をツールとして130の気候テーマファンド(総資産額670億㌦)を分析した。

 

気候テーマファンドのPPA適合率の分布
グローバルな気候テーマファンドのPPA適合率の分布

 

 その結果、これらのうち72ファンド(55%)がポートフォリオのパリ協定適合度(Portfolio Paris Alignment :PPA)がネガティブだった。つまりこれらのファンドは気候テーマファンドと投資家にアピールしながら、実際の運用成果では、パリ協定の目標と整合していないことになる。上図でわかるように、PPAへの適合率はマイナス10%~同20%がもっとも多く、次いで0~10%。全体ではマイナス42%からプラス90%までかなりの乖離があった。

 

 各ファンドのPPA適合率を引き下げる要因になっている投資先企業は、TotalEnergies、Kinder Morgan、Enbridge、Neste、Halliburton、Chevron、ExxonMobil等。エネルギー関連企業が多い。「ネットゼロ」を意識する投資家はこれらの企業への個別投資を敬遠する傾向にあるが、インデックスを通じてファンドに組み込まれると、見逃される場合が少なくないという。

 

 グローバルに知られるブラックロック、UBS、BNPパリバ、ステートストリート、インベスコの5金融機関が運用する気候テーマファンドも比較した。それによると、運用対象ファンドのパリ協定との適合性で、もっとも悪かったのが米ステートストリート(運用7ファンド)のマイナス14%。次いで、UBS Group(同8ファンド)のマイナス8%。もっともよかったのはインベスコ(同4ファンド)の24%。大手でもかなりの差があることがわかった。

 

グローバル大手資産運用機関の運用ファンドの適合状況
グローバル大手資産運用機関の運用ファンドの適合状況

 

 「不名誉」な分析結果を示されたステートストリートは、Bloombergの取材に対して、「投資家のさまざまなニーズとリスクプロフィルに合わせて、同社は『パリ協定に沿ったファンドや他の方法で気候目標を達成するファンドを含むさまざまなESG戦略』を提供している」とのコメントを示している。https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-08-27/QYH27IT1UM0X01

 

 高い評価を得た形のインベスコだが、PPAへの適合率は同社のファンドによっても大きく異なる。「Invesco Great Wall Environmental Advantage Equity Fund」はマイナス42%と最悪のPPAファンドだった。

 

 ブラックロックは全体ではマイナス6%。8つの気候テーマファンドを運用しているが、もっともPPAが悪かったのは「ACS Climate Transition World Equity Fund」のマイナス18%、「iShares Global Clean Energy ET」等はプラス8%と、ここでもファンドによるPPAの適合度合いの差が明瞭だ。

 

 幅広いESGカテゴリーを投資対象とする593の株ファンド(総額2650億㌦)を対象とした分析では、対象ファンドのうち421ファンド(71%)は、PPAでネガティブスコアを示した。これらのファンドはパリ協定の目標と不整合ということになる。ESGカテゴリーの偏りが想定される。

 

 大手資産運用機関の投資ファンドの特徴は、パッシブ運用で気候テーマのインデックス投資を組み込んでいる点だ。気候やESGを重視するインデックスでは、除外クライテリアや重みづけ(weighting)の投資方針を組み込むケースが多い。

 

 このうち除外クライテリアではエネルギー産業等の炭素集約型企業を除外するとしても、運用上の理由もあって、川下の自動車産業や電力会社等を組み込むことで、炭素依存度を大きく減少できていないという。Weighting戦略では、利回り重視の都合で、結果的に構成銘柄に入っている炭素集約型企業への投資を増大させる場合もあるという。

 

 欧米では気候・サステナビリティ・ESG関連金融商品の拡大の一方で、「グリーンウォッシング」への警戒感も強まっている。今回のIMの調査結果に対しては、市場関係者も「納得」との評価が少なくない。グリーンファイナンスの定義づけや、ルールの明確化等を金融当局が主導する必要があるだろう。

 

https://influencemap.org/report/Climate-Funds-Are-They-Paris-Aligned-3eb83347267949847084306dae01c7b0