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米国の保守系州当局の財務役人団体、反ESGキャンペーンにFederated HermesやJPモルガン等の複数の金融機関巻き込む。化石燃料ボイコット金融機関のブラックリスト化で圧力も(RIEF)

2022-08-24 08:24:24

SFOF001キャプチャ

 

 米国の保守系州政府の財務長官や監査役等で構成する「反ESG」団体が、米金融界を揺さぶっている。伝統的な市場主義、小さな政府を重視する視点から、連邦政府や民主党系州政府等のESG重視の政策を「反成長主義」と批判する動きだ。すでに23州の担当役人が参加している。中には化石燃料投融資をボイコットする金融機関のブラックリストを作成する州もある。金融機関はこれらの州政府とも取引をしているため、求められて同運動の支援スポンサーに就く金融機関に対しては、ESG重視の州やNGO等から強い批判が向けられている。

 

 (写真は、勢ぞろいする保守系州当局の財務担当役人たち)

 

 注目を集めている団体は、「State Financial Officer Foundation(SFOF:州財務官僚団体)」。2012年の設立で、現在の参加者の所属州は、米中西部のネブラスカ、ミズーリや、南部のオクラホマ、テキサス、ルイジアナ、アーカンソー、ケンタッキー等、23州に及んでいる。いずれも保守系の地盤で知事は共和党というところが多い。

 

 ただ、共和党の応援団というよりも、「選挙で選ばれた公務員は大衆迎合的な政策を推進するが、選挙で選ばれてはいない我々、州の財務担当役人は、政治に左右されないため、人々からの信頼も高い」と強調。政治任命の重要性より、役人としての専門性をアピールする形でもある。

 

 SFOFは、その立脚する原則として、次の6つのコア原則を掲げる。①経済的自由権②法に基づくルール③州の自治を重視するフェデラリズム④説明責任⑤自由な社会⑥言論の自由と丁寧な対話ーーだ。 ①にあげた経済的自由権(Ecnomic Freedom)では、民間部門においては、規制は適正かつ限定的なものとし、公平で開かれた競争の確保こそが、社会にとって最善の結果をもたらす、と指摘している。伝統的自由主義の理論だ。

 

 そのSFOFの矛先がESGに向けられているわけだ。ESGを重視する政策や金融機関の取り組み等は「適正かつ限定的な規制」の枠を逸脱し、市場と成長の重視を無視した「大衆迎合的な動き」と批判する。SFOFは自らの活動を経済社会全体に広めるため、企業や金融機関にも賛同を求めて、各地で教育セミナーや会合等を展開している。そのスポンサーに複数の企業や金融機関がなっているわけだ。

 

 SFOFのサイトでは、スポンサー団体を「ダイアモンド」から「ゴールド」「シルバー」「ブロンズ」「フレンド」の5段階に分けて掲載している。もっとも上位の「ダイアモンド」はConsumers’ ResearchとPublic Trust Advisorsの2団体。保守系シンクタンクと、同じく保守系の資産運用会社だ。

 

 次の「ゴールド」にFederated Hermesとマスターカードの名がある。「シルバー」には、Fidelity Investments、Invesco、Visa。「ブロンズ」に、アセンサス、Mischler Financial Group、それにWells Fargo。「フレンズ」には、JP MorganとCredit Union National Association等。

 

 「ゴールド」スポンサーは5万㌦で、支払うとオープニングディナーのスポンサーのほか、e-ニュースレターのコラム、30~40分のバーチャル個別ミーティング等を受ける「メリット」があるという。「シルバー」は2万5000㌦。「ブロンズ」1万5000㌦、「フレンズ」1万㌦で、それぞれに応じた見返りがあるとしている。「フレンズ」には最近までKKRも名を連ねていたが、そのことが報道されたことから、現在は、KKRの名は見当たらない。

 

 金融機関で最上位の「ゴールド」スポンサーになっているFederated Hermesは「ESG要因を考慮することは、必要な情報と有益な投資判断を提供すると信じる。したがって、われわれは、最大のリターンを上げるとの目標と、質量両面で重要性のあるESG要因を(投資判断の)評価に盛り込むことの間には、何ら矛盾はないと考える」と説明している。

 

  SFOFが目指す「最大リターンの追求」と、ESG要因を投資行動に盛り込むことの間には、何ら対立はないとの主張だ。だからESGを評価する一方で、自由・成長主義のSFOFのスポンサーになることは両立するとする。いささか、「居直り」的な論法にも聞こえる。しかし、大きな運用資産を抱える各州当局だけに、金融機関側も取引上、その担当役人たちの言い分と行動を無視できない状況にあるようだ。

 

 ただ、選挙で選ばれたわけでもない役人たちが、自分流の「政治的」なスタンスを明瞭にし、それを州財政の運営に反映させる行動をとり、そうした行動を「運動」として全米規模に広げることは、法に基づくルール、説明責任等と整合しないのも明らかだろう。米国だけではなく、日本でも、選挙で選ばれたわけでもない霞が関の役人たちが、広範囲な政策領域で、事実上の政策決定権を握っている実態が指摘される。

 

 政治の転換によって、そのたびに、政策が大きく揺れ動くのも困る。だが、官僚機構が「自らの信念」を業務に反映させ、反ESGのキャンペーンや「教育活動」を公務として展開するのも望ましくはないだろう。日本政府の中にも、反ESG、反サステナビリティ、を実質的に後押しする省庁もあるようだ。この場合、「信念」よりも、旧体制を守る「利権」の維持に視点が合わさっているように思える。

 

 とはいえ、SFOFの存在とその拡大は、金融機関だけでなく、バイデン政権にとっても、不気味な存在になってきたようだ。

                           (藤井良広)

 

https://sfof.com/about/

https://www.hermes-investment.com/uk/en/institutions/about-us/