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国際NGO。日本製鉄の気候対策の「危うさ」指摘の報告書。同社の「2050年ネットゼロ目標」は「1.5℃目標」と整合せず、「グリーンウォッシュ」の懸念。高炉の脱炭素技術も道半ば(RIEF)

2024-05-31 01:30:04

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 鉄鋼分野の脱炭素化を求める国際NGOの「スティール・ウォッチ(SteelWatch)」は31日、日本製鉄の気候対策を分析する報告書を公表した。それによると、同社は、2050年ネットゼロを掲げる一方で「1.5℃」シナリオへの対応を明確に公約しておらず、現時点での削減目標は「1.5℃」に整合しないと指摘。2030年目標も排出原単位ではなく絶対排出量で示しており、生産工程の脱炭素化をしなくても国内の生産量の大幅削減で達成できるなど、実質的な排出削減とかけ離れた「グリーンウォッシュ目標」と評価している。NGOは、日鉄の気候戦略は「あまりに遅く、不十分」であり、地球環境にとっても、企業自体の将来にとっても危機感を伴う、警告している。

 

 同NGOの分析によると、日鉄は、国内で稼働中の鉄鋼業界全体の高炉19基のうち11基を所有しており、鉄鋼業界全体での石炭使用の圧倒的に大きな割合を同社が占めている点を重視している。日鉄の石炭依存は、同社が引き続き3つのレベルで石炭分野を強化している点で、より憂慮すべきものとなっていると分析する。

 

 その第一は、同社がここ数年オーストラリアとカナダで石炭採掘への投資を拡大している点だ。第二点目は、国内需要減退により日本での粗鋼生産能力を削減する一方で、海外では野心的な成長計画を進め、排出を増加している点だ。この点は現在買収を提案している米USスチール社も石炭依存の鉄鋼生産が主であり、インドではグリーンフィールド型(未開発の土地でゼロから開発する手法)の高炉建設を進めているとみている。

 

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 第三は、鉄鋼生産事業での石炭の段階的廃止を打ち出したり、計画を推進中の競合他社とは異なり、日鉄は未だ実証されていない技術で高炉を維持しながらCO2の排出削減を図っている点だ。この点は、火力発電へのアンモニア混焼を重視する国内既存の電力会社と同様な「現状重視」の手法に固執している点といえる。

 

 日鉄は、欧米の鉄鋼メーカー等が取り組んでいるグリーン水素を利用した直接還元鉄(DRI)の電炉(EAF)による製鉄工程について「実証されていない」と否定的な立場をとっている。だが、報告書は、大規模な電炉方式はすでに何年も前から使用されており、再エネ電力を用いた水電気分解によるグリーン水素100%使用の鉄鉱石の直接還元(グリーン水素DRI)も、スウェーデン企業が2021年に実証に成功、2026年にはすでに大規模な稼働が見込まれているとして、日鉄の否定的な対応に疑問を示している。

 

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 一方で、日鉄が推奨する脱炭素技術のCOURSE50とその改良版である Super COURSE50 は、高炉への水素投入とCCUSの併用によるものだが、より大きな規模での再現性は今のところ不明確、と懸念している。現状は、COURSE50もSuper COURSE50 も、商業規模の高炉の400分の1の小型炉での試験レベルでしかない、と同社が依存する技術の課題を指摘している。

 

 加えて、CCSの活用についても、日本政府はグリーン・トランスフォーメーション(GX)政策に盛り込んでいるが、現在、日本では適切な施設は存在しておらず、今後の開発頼みというのが実態だ。仮に、これらの課題点を克服できたとしても、日鉄は今のところ、Super COURSE50で削減できるCO2排出量は50%としており、同技術を採用した高炉は、気候変動をくい止めるために必要な排出ゼロに近いレベルにはほど遠い、としている。

 

 このままでは、再生可能電力の利用で1.5℃シナリオに整合しうる代替手段の「グリーン水素による直接還元製鉄技術を採用した電炉(green H2-DRI-EAF)」での鉄鋼生産を推進している欧州鉄鋼業界に大きく遅れをとる、と指摘している。

 

 同NGOはこうした指摘をしたうえで、「日鉄には、(現在の)方針を変更し、(グローバルな鉄鋼各社に)遅れを取ることなく脱炭素化の約束を果たす機会がある。2050年までにネットゼロを達成 するという日鉄の約束は、会社の明確な到達地点を示しているが、最も重要なのは、今後2050年までの累積排出量で あり、同社はそこへ至る道筋を明確にする必要がある」と強調。次いで、2030年の中間目標を強化して、2030年までに排出量を1.5℃ 目標の軌道に乗せ、世界の全ての子会社を含める必要がある。 目標は実行してこそ意味がある、と求めている。

https://steelwatch.org/wp-content/uploads/2024/05/SteelWatch_NipponSteel_MAY2024_Japanese.pdf