「エクエーター原則」離脱組のシティバンク等の米銀主導によるメキシコ湾岸LNGターミナル事業の巨大集積化。環境・社会的影響の増幅・増大を懸念し、日米欧の環境NGOが共同行動（RIEF）

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「エクエーター原則」離脱組のシティバンク等の米銀主導によるメキシコ湾岸LNGターミナル事業の巨大集積化。環境・社会的影響の増幅・増大を懸念し、日米欧の環境NGOが共同行動（RIEF）

2024-06-29 23:24:41

（写真は、メキシコ湾岸地域で、すでに稼働している「レイク・チャールズ」のLNGターミナル＝Heartland Daily Newsより）

　日米欧の32の環境NGO、住民団体が28日、日本の3メガバンクと欧州の大手銀行合計11行に対して、米メキシコ湾岸で建設が進む20以上のLNGターミナル事業の巨大集積化へのファイナンスの停止を求める共同書簡を公表した。テキサス州とルイジアナ州にまたがる同湾南部地域では、すでに稼働中のLNG基地が5ヵ所と製油所や石油化学施設が多数あり、周辺地域に環境・社会両面での悪影響を与えているが、新たに20以上のLNG基地が計画・建設中で、世界最大のLNGターミナルの巨大集積サイトになる見通しだ。NGOらは、こうしたLNGインフラの集積で、環境・社会的汚染・被害もまた集積・増大化するとして各事業に投融資する金融機関に投融資の見直しと見送りを求めて共同行動をとった。

　膨大な環境・社会的影響が懸念される巨大LNGターミナル事業の集積化へのファイナンスの主導役のシティバンクは、バンク・オブ・アメリカ（BOA）、JPモルガンチェース、ウェルスファーゴとともに、今年初め、国際的プロジェクトファイナンスでの環境・社会的影響に配慮する金融機関の自主的取り組みの「エクエーター原則」から集団離脱した。日本からは三井住友フィナンシャルグループ（SMBC）が歩調を合わせる形で離脱した。

　シティ等の各行とも離脱理由については公表していない。エクエーター原則に伴う投融資対象事業の環境・社会的影響評価については、すでに行内の手続きとして定着しているとして、環境・社会的影響評価を後退させる考えはない、としている。しかし、あえて自分たちが主導した自主的な原則から離脱したことで、法的訴訟となった場合の、行内での根拠を取り消したとの見方も出ている。

メキシコ湾岸沿いに展開するLNGターミナル事業（Greenpeaceの資料より）

　今回のメキシコ湾岸でのLNGターミナル事業投融資への対応が、そうした法的防御のための「事前対応」案件かどうかは、現時点ではわからない。だが、浮上しているメキシコ湾海域でLNGターミナルの巨大集積化のインパクトは、極めて大きい。NGOからの問いかけにどう対応するのか。

　同地域での石油生産量は米国の原油生産量の17％を占め、天然ガス生産量は米国6％を占める。米国の石油精製能力の50％近く、天然ガスの処理能力は50％以上が同地域に集積している。米国のシェールガスを含む天然ガス資源は100年分の埋蔵量があるとされる。脱炭素化への「移行燃料」として、石炭火力からガスへの転換が進むほか、ロシアのウクライナ侵攻以降、欧州を中心にLNG需要が増大している。豊富なガス資源を持つ米国は、2023年前半に米国は他国を抜いて世界一の輸出国になっている。

　しかし、テキサス、ルイジアナの両州にまたがる湾岸地域にぞくぞくと建設が予定されるLNGターミナルと関連施設は、ミシシッピー川河口部を含む低湿地帯を埋め立てて建設されるため、生態系を大きく改変し、ハリケーン襲来時の洪水リスクを高めている。また、現状のLNGターミナル５件（NGOよると、遠隔地を含めると7件）に加え、新たにその4倍以上の20件強のLNGターミナル事業が追加建設されると、個々のターミナル事業の環境・社会的インパクトが増幅される影響の拡大が懸念されている。

　NGOの共同書簡によると、これまでのLNG設備から排出される大気汚染物質等は、最近の報告書に基づくと、キャメロン、コーパスクリスティ、フリーポート、ドリフトウッド、プラケミン、リオグランデのLNGターミナル施設だけで年間264㌧の有害汚染物質の排出が推定されるという。主な汚染物質には、ホルムアルデヒド、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレンなどが含まれ、日常的に汚染を被る住民は、がんや心臓、肺、腎臓疾患の増加などの深刻な健康被害増大に直面しているという。

メキシコ湾岸地域にすでに建設されているLNGターミナル関連施設 — テキサス・ルイジアナ両州にまたがるゴールデンパスのLNGターミナルと関連施設（Wire Rope Exchangeより）

　5件のLNGターミナル事業だけでこうした環境・社会的インパクトが顕在化している中で、20以上のLNG基地事業が追加操業することで、環境・社会的影響は増大・増幅が懸念される。さらに、各計画のいくつかは、同地域に住む先住民の聖地を通過するほか、低所得者層、移民、先住民コミュニティ、とりわけ、この地域の人口の大半を占める有色人種コミュニティに大きな影響を与える可能性が指摘されている。

　こうしたことへの住民からの苦情を受け、連邦エネルギー省（DOE）は、これらの事業計画のうち12件については、気候や地域社会への影響が評価されるまで、LNGの新規輸出の承認を一時停止する措置をとった。しかし、同保留措置は中止を意味するものではなく、「特定の状況下では一時停止を取り消すことができる」との条件付きという。

　NGOや地域住民たちは、こうしたLNGターミナルの巨大集積化による環境・社会的影響の増大・増幅の責任は、LNG事業計画を推進する事業者だけではなく、同事業への投融資ファイナンスを展開する米銀および協調融資やプロジェクトファイナンス等に参加する日欧の大手金融機関にもあると指摘。これらの金融機関はLNG関連の投融資を通じて、環境汚染や人種差別の拡大、気候変動の増大を助長していると、強く非難している。

　28日には、湾岸南部地域の200人近いコミュニティ・オーガナイザーと最前線で活動するリーダーたちが、ニューヨークのシティバンク本社に向けて大規模なデモ行進を展開した。また同市内のドイツ銀行などの欧州系銀行の前でも抗議行動を行った。日欧の大手銀行向けの共同書簡は、米銀等への直接行動と連携する形で、協調融資やプロジェクトファイナンスに参加する日欧銀行に照準を定め、LNGターミナル・ファイナンスの見直しを求めた。

　書簡では、LNGターミナル事業による環境・地域住民への健康への深刻な影響やコミュニティへの社会的影響に加えて、いくつかのプロジェクトには建設や運営上の問題があり、銀行にとって財務上のリスクとなる点も指摘している。2022年にはフリーポートLNGターミナル（テキサス州）で爆発事故が発生している。環境保護庁（EPA）は、安全規則違反でプロジェクトの運営会社に罰金を科し、フリーポートLNGはプラントの欠陥問題が表面化し請負業者と訴訟になっているという。また急増するLNGターミナル同士の競合から、各事業が採算が取れず「座礁資産」になる懸念もあるとしている。

　こうした状況下で融機関がLNGターミナル事業への投融資を継続することは、風評リスクだけでなく、銀行自体も訴訟リスクを抱える懸念があるとしている。気候変動関連の訴訟では、シェルはオランダで気候変動対策の不備に関する訴訟を起こされ、2030年までに2019年比で世界全体の排出量を45％削減するよう命じられた。銀行に対する訴訟も起きている。仏BNPパリバは化石燃料への融資をめぐる訴訟中だし、オランダのINGも環境NGOから化石燃料事業への融資をめぐって気候訴訟に直面している。

　書簡は、リスクの高いプロジェクトや企業に融資することで、銀行の取締役自身も、エクエーター原則で定めたような内部での環境・社会リスク評価の手順を踏まないといった手続き違反が発覚した場合、株主代表訴訟等の対象になる可能性もある。共同書簡は、書簡が指摘する点についての各銀行の回答を8月までに（７月中）に受け取ることを求めている。

　日本の銀行では、三菱UFJフィナンシャル・グループ（MUFG）、SMBC、みずほフィナンシャルグループに書簡が送られた。環境NGOのFoEJapan副代表の深草亜悠美氏は「LNGは脱炭素への『橋渡しの燃料（bridge fuel』ではない。気候とコミュニティにさらなるダメージを与える燃料だ。日本の金融機関は気候対策にコミットしながら、メキシコ湾岸で気候に悪影響を与えるLNGターミナル事業を積極的に支援している。銀行は、化石燃料ガス事業への支援を除外するための厳格な方針を導入すべきだ」と指摘している。

マーケットフォースの日本エネルギーファイナンス・キャンぺナーの渡辺瑛莉氏は「日本のメガバンクは世界トップのLNG融資機関であり、世界的な気候変動目標へのコミットメントを守るべき。MUFGの経営陣は株主総会で、先住民族の人権への影響や財務的リスクなど、環境・社会的セーフガードを確認しないプロジェクトには融資しないと述べている。にもかかわらず、同行を含む大手銀行が、地域社会と気候に不可逆的な害をもたらすLNGを銀行が支援することは、まったく受け入れられない」と述べている。