HOME |国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)。「AR6」の気候緩和報告書公表。2025年までにGHG排出量のピークアウトさせ、30年までに現行より43%削減、50年までには84%削減が必要(RIEF) |

国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)。「AR6」の気候緩和報告書公表。2025年までにGHG排出量のピークアウトさせ、30年までに現行より43%削減、50年までには84%削減が必要(RIEF)

2022-04-05 13:01:08

AR6003キャプチャ

 

  国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は4日、温室効果ガス(GHG)排出削減策を検討する第6次評価報告書(AR6)の第3作業部会報告書(気候緩和)を公表した。それによると、世界の平均気温の上昇を「1.5℃」にとどめる目標達成のためには、GHG排出量を遅くとも2025年までにピークアウトさせ、 2030年までに約43%削減(2019年比)、2050年までに約84%削減(同)が必要、とした。そのためには化石燃料の使用の削減を進め、エネルギー効率化、水素エネルギー等への転換を進めることを求めている。

 

 IPCCは昨年夏以来、3部作からなるAR6を順次公開している。今回の第3部会報告ですべて出そろった。IPCC議長のイ・フェソン(Hoesung Lee)氏は「われわれは今、分岐点に立っている。今、われわれが決断すれば、未来を確保できる。温暖化を限定するためのツールやノウハウは既に持っている。各国が政策、規制、市場機能等をもっと幅広く展開し、活用すれば、GHGのさらなる削減は可能だ」と述べた。

 

 今回の報告によると、世界の気温上昇はすでに産業革命前から約1.1℃の上昇となっている。このままの排出が続けば今後20年で1.5℃を超える可能性が高いと指摘している。このため、温暖化を抑制するには、25年までに各国の総排出量の増加を抑え、減少に転じさせる必要があるとした。さらに、世界全体で50~55年にはCO2排出量を「実質ゼロ」にする必要性も強調した。

 

 現状のペースで石炭・天然ガス等の化石燃料使用を続けると、今世紀末には世界の気温上昇は3.2℃にまで上昇する。現在、各国が掲げる削減目標をすべて実現したとしても2.8℃の上昇になってしまう。このため、GHGの最大の排出源である石油、石炭、天然ガス等の化石燃料からの思い切った転換を求めている。現在、操業中の火力発電所や計画中の発電所等を削減対策なしで使い続けると、1.5℃目標の達成は無理で、2℃目標の達成も危ういとしている。

 

 排出量を30年にほぼ半減させるためには、世界全体で最大30兆㌦の投資が必要になる。国際エネルギー機関(IEA)によると、世界のクリーンエネルギー関連の投資は現在、年約1兆㌦。今後10年未満で最大30兆㌦の投資を温暖化対応に投じることは、米国の民間設備投資全体(20年に約2.8兆㌦)とほぼ同規模の資金を温暖化対策に集中させることを意味する。しかし、イ議長が指摘したように、IPCCはこうした脱炭素化投資は、既存の技術で対応可能としている。

 

 具体的な技術と政策手段として、太陽光や風力等の再生可能エネルギーのさらなる拡大、エネルギー効率の改善、CO2吸収力のある森林破壊等の防止、メタン削減策の強化、新たな水素エネルギー等への転換等を重点的な対策としてあげている。CO2を1㌧減らすのに100㌦以下の手ごろな再エネ対策を利用するだけで、30年までに排出量をほぼ半分(2019年比)に減らせるとしている。

 

 一方で、化石燃料を使う火力発電所などが現状のまま稼働し続ければ、GHG削減目標は達成できないとの見方も明記した。温暖化がさらに進行すれば、激しい自然災害などで物理リスクが上昇する。経済活動全体に支障が生じ、経済社会が被る損害額も増大する。温暖化抑制のための投資を早期に集中して行うことで、温暖化による膨大な物理的損害を避ける可能性も高まる。

 

 ただ、IPCCのこうしたシナリオとは別に、現在、起きているロシアのウクライナ侵攻の影響で、ロシアの天然ガスに頼っていた欧州各国は、直近のエネルギー確保のため、ガスよりもCO2排出量の多い石炭火力発電に戻ろうとする動きも出ている。そうではなく、ロシアへのエネルギー依存からの脱出を脱炭素の加速につなげる動きに転じることができるかどうか。世界は今、脱炭素と脱戦争の選択肢を迫られている。

 

 IPCCは、昨年8月、今年2月に公表したAR6の各部会報告を、今回の報告と合わせた全体報告書を、今年9月に公表する。その成果は「最新の科学的分析」として11月にエジプトで開く国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)での議論の土台となる。昨年のCOP26では「1.5℃目標」を努力目標とすることで合意したが、COP27でさらに「努力」を進めるか、それとも、戦火の影響で立ち止まるか。ウクライナ侵攻の早期停止とともに、気候対応の脱炭素の対策の早期決着が求められている。

https://www.ipcc.ch/report/ar6/wg3/

https://report.ipcc.ch/ar6wg3/pdf/IPCC_AR6_WGIII_PressRelease-English.pdf

https://report.ipcc.ch/ar6wg3/pdf/IPCC_AR6_WGIII_SummaryForPolicymakers.pdf

https://report.ipcc.ch/ar6wg3/pdf/IPCC_AR6_WGIII_FinalDraft_FullReport.pdf