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昨年のCOP26で各国が「約束」したNDCs改定版を期限までに提出した国は23カ国だけ。ロシアのウクライナ侵攻に伴うエネルギー危機の広がりで気候対策への熱意後退を浮き彫り(RIEF)

2022-09-28 18:04:31

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 11月の国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)に向けた各国の取り組みが滞っている。昨年のCOP26で参加各国は「自らの2030年気候計画の再確認と強化」を約束、その進捗レポート提出の期限までに「国が定める温暖化貢献(NDCs)」策の改定を提出した国は、5月に労働党政権に移行したオーストラリアやCOP27の主催国のエジプト等、23カ国にとどまった。ロシアのウクライナ侵攻でエネルギー危機感が広がる影響で、グローバルに気候対策への取り組みの熱意が減じられている懸念がある。

 

 (写真は、5月にデンマークで開いた気候関連の閣僚会議の模様)

 

 COP26で議長を務めた英国のAlok Sharma氏は、会議を踏まえて次期COPまでにNDCs改定強化を呼び掛け、その進捗レポートの期限を今月23日と設定していた。これを受け、改定NDCsを提出したのは国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)に署名している約200カ国中、23カ国。改定の内容も、温暖化政策の説明を詳細に改めた形が多く、目標値の強化・前倒し等は限られている。

 改定NDCsの主な提出国では、5月に政権交代したオーストラリアがあげられる。政権の座に就いた労働党は、前政権が30年目標とした26~28%減(2005年比)とした目標を、同43%減へと、他の先進国並みに引き上げた。

 

5月に政権の座に就いたオーストラリア労働党のアルバニー首相
5月に政権の座に就いたオーストラリアのアルバニージー首相(中央)

 

 インドネシアは30年目標を、従来の29%削減から約3%上乗せし、31.89%とした。同時に国際的なファイナンス支援を条件とした目標値についても、従来の41%から43.2%へ引き上げた。

 

 COP27開催国のエジプトは初めて2030年の削減目標値を示した。しかし、国全体ではなく、発電等の特定部門に限定している。発電部門では33%削減(BAU比)、輸送部門は7%削減(同)とした。発電部門では目標達成のために、35年までに発電に占める非効率な火力発電を閉鎖し、再生可能エネルギー発電の割合を42%に引き上げる計画を示している。

 

 次の次のCOP28の開催国に予定されるアラブ首長国連邦(UAE)も、30年目標を従来の23.5%削減から31%削減に引き上げた。ブラジルも37%減から50%減に引き上げた。ただ、ブラジルの場合、基準とする2005年排出量の測定方法も改定した。環境NGOらは測定方法の修正で「新目標は従来より達成が容易になる」と指摘している。ウガンダ、ガンビア、バヌアツ等も改定版を提出した。

 

 これらの国以外に、チリ、メキシコ、トルコ、ベトナム等の国々も、6月の時点でNDCsの目標引き上げに言及していた。しかし、その後のエネルギー市場の変化や、グローバル経済の低迷等で、期限までに改定NDCsの提出には至っていない。

 

 排出量が多い中国、米国、EUの各国・地域も、昨年表明したNDCs目標の達成のための政策に力を入れており、改定目標の提出は行っていない。米国では、バイデン政権が強く推進していた気候変動、社会福祉対策を柱とする総額3兆5000億㌦のインフレ抑制法(IRA)が成立した。これでようやく米国の気候変動対策が本格稼働すると期待されている。

 

 EUは、ロシアのウクライナ侵攻以来、中期的な気候計画の改定の計画案が議論されている。だが、加盟国ベースでは、ロシアからの輸入天然ガスが減少した影響で、今冬のエネルギー確保を最優先する動きとなっている。このため、化石燃料火力発電所の再開や、ドイツのように原発の稼働の延長等でエネルギー確保に向かう動きも出ており、気候政策強化の明確な方向は打ち出せていない。European Climate FoundationのCEO、Laurence Tubiana氏は「エネルギー危機は、特に欧州の各国政府に対して、化石燃料利用に舞い戻る動きを強いている」と懸念を示している。

 

 Climate AnalyticsのCEO、Bill Hare氏は「COP26からの進展はほとんどないといえる。特にロシアのウクライナへの不法な侵攻で、エネルギー市場が大混乱に陥り、その影響が今も続いている。しかし、IPCCの評価と、実際の各国の排出量との間には大きなギャップがあり、産業革命以来の世界の気温上昇を1.5℃未満に維持するためには、ギャップを削減するために、やらねばならない多くのことがある」と指摘している。

https://unfccc.int/NDCREG