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日米政府、中国の「ウイグル問題」を念頭に、企業のサプライチェーンでの人権侵害行為排除の協議体設立の文書に署名。企業に働きかけ。「CSR活動に『政治介入』のリスク」も(RIEF)

2023-01-09 00:31:13

USTR001キャプチャ

 

  各紙の報道によると、西村康稔経済産業相と米通商代表部(USTR)のタイ代表は6日、企業のサプライチェーン上の人権侵害行為を排除する取り組みに協力する文書に署名した。新たに両国で協議体を作り、労働者の人権保護等の情報を共有し、企業のサプライチェーン取り組みに反映させることを目指す。国際的に指摘されている中国のウイグル族への人権侵害問題への対応が主とされるが、企業のCSR対応に「政治的圧力」が加えられる点への懸念もある。

 

写真は、「サプライチェーン取り組み」の日米協議会設置に署名した西村経済産業相(前列㊨)とタイ米通商代表部(USTR)代表(同㊧)=1月6日、米ホワイトハウスで)

 

 各紙の報道によると、日米が合意した企業のサプライチェーンの人権問題の協議体は、両国の関係官庁で構成する。日本からは経産省と外務省、米国からはUSTR、国土安全保障省、商務省など。西村氏は会談後、記者団に対して「(協議会は)企業の予見可能性の向上に大きく寄与する」と記者団に述べ、「価値観を共有する同志国に取り組みを広げていきたい」と強調した。

 

 一方、USTRのタイ氏は「今日発足した協議体は、労働者を貿易政策の中心に据えるための戦略の一環」と説明した。西村氏は今回の日米の取り組みについて「特定の国・地域を念頭に置いたものではない」と説明したが、対象は中国の新疆ウイグル自治区でウイグル族の住民が強制労働等を強いられているとされることへの対応を、念頭に置いているとされる。

 

 米国では、2022年6月に中国の同地区で生産した製品の輸入を原則禁じる法律を施行している。ウイグルでの人権侵害に根強い懸念と批判があることを受けた措置だ。一方、日本政府は最近、企業の人権対応を巡る指針をまとめた。米国とは違い法律ではなく、あくまでも行政指導のレベル。両国政府は新設する協議体を通じ、企業によるサプライチェーン見直しを共同で要請していくとしている。

 

 米国では2021年1月に、ユニクロを展開するファーストリテイリングが米国税関当局から、中国の新疆生産建設兵団(Xinjiang Production and Construction Corps:XPCC)が生産した綿および綿製品を米国に輸入しようとしたとして差し止めを受ける事態が起きた。同社は5月に「生産過程で強制労働などの問題がないことが確認されたコットンのみを使用している」と発表した。http://rief-jp.org/ct4/114346

 

 さらに同年7月、同社はフランスの司法当局からもウイグル問題で、他の衣料・靴大手3社とともに、人道に対する罪の隠匿の疑いで捜査を受けたとの報道もあった。22年8月末には、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)が、ウイグル自治区で「テロや過激派対策の名目で深刻な人権侵害が行われてきた」とする報告書を公表している。https://rief-jp.org/ct4/115803

https://rief-jp.org/ct11/127982

 こうした国連や各国当局の動きを受けて、西側の衣料・雑貨関連業界の企業の中には、同地区の企業との取引を停止する動きが出ている。今回の日米協調の動きは、両国政府が主導する形で、日米両国の関連企業に対して、サプライチェーンでの人権侵害排除への取り組みを強化するように求めると同時に、中国に対する「政治的揺さぶり」の一策とする狙いも見え隠れする。https://rief-jp.org/ct11/115326

 

 その点は、ウイグル問題で、日本のユニクロが真っ先に米国でやり玉にあげられた点にも伺える。「ユニクロ問題」後、「ウイグル関連の取引引き揚げ」に踏み切らないと、米国市場から締め出される懸念が日本企業に広がっている。今回の日米協議会設置は、そうした米側の措置を「経産省も公認」する形になったともいえる。

 

 「強制労働」等を展開する企業をサプライチェーンに抱えることは、企業にとってESGリスクを高めることは間違いない。その一方で、取引先の中国企業がウイグルリスクに「感染」しているかどうかの判断に、西側諸国の政治的判断が加わると、正常な経済取引を損なうリスクもある。ロシアのウクライナ侵攻後、米国の「対中牽制」が激しくなっているだけに、グローバルにビジネス展開を行う企業ほど、どのリスクをとるかという判断が問われる。

 

 今回の日米「サプライチェーン取り組み」を前向きに取り扱うならば、ウイグル問題に限らず、本来の趣旨であろう「サプライチェーンリスク」の軽減のために、日本企業が下請け等で抱える途上国からの技術実習生の「人権」問題や、親会社と下請けとの賃金格差等の是正策についても「日米の共通課題」として、取り扱ってはどうか。

 

 西村経産相が「特定の国・地域を念頭に置いたものではない」と説明したのが本当ならば、サプライチェーン全体の透明化と公平化を促進してこそ、日米協議の本当の意味があるはずだ。

                          (藤井良広)

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230107&ng=DGKKZO67410760X00C23A1NNE000